ID番号 | : | 07066 |
事件名 | : | 地位保全仮処分申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 東谷山家事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 一般貨物運送等を業とする会社でトラック運転手として業務に従事していた労働者が、髪の毛を短髪にして黄色く染めて勤務したことに対して、右会社の課長が取引先から好ましくないとの連絡があった等を理由に髪の色を元に戻すようにとの指示を行ったが、指示に従わなかったことを理由に諭旨解雇され、地位保全の仮処分を申し立てた事例(認容)。 |
参照法条 | : | 民法1条3項 労働基準法2章 労働基準法89条1項3号 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇事由 / 上司反抗 解雇(民事) / 解雇権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1997年12月25日 |
裁判所名 | : | 福岡地小倉支 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成9年 (ヨ) 285 |
裁判結果 | : | 一部認容,一部却下 |
出典 | : | 労働判例732号53頁/労経速報1672号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 佐藤正憲・立教大学大学院法学研究23号97~108頁1999年12月/中村和夫・静岡大学法政研究3巻1号181~192頁1998年9月/木下潮音・労働判例734号6~12頁1998年5月15日 |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇権の濫用〕 本件解雇は、債権者が頭髪を染めたことに端を発して、債務者から髪の色を元に戻すよう再三にわたり指示・説得されたにかかわらず債権者がこれに従わず、けん責処分としての始末書の提出にも応じなかった上、債務者会社の経営姿勢・方針に一切服しないとの態度表明をしたとして、前記(第二の一の3)のとおり、債務者からけん責より重い諭旨解雇処分に付されたものである。 しかしながら、本件解雇は、以下に検討するとおり、解雇権の濫用に当たり無効というべきである。 2 一般に、企業は、企業内秩序を維持・確保するため、労働者の動静を把握する必要に迫られる場合のあることは当然であり、このような場合、企業としては労働者に必要な規制、指示、命令等を行うことが許されるというべきである。しかしながら、このようにいうことは、労働者が企業の一般的支配に服することを意味するものではなく、企業に与えられた秩序維持の権限は、自ずとその本質に伴う限界があるといわなければならない。特に、労働者の髪の色・型、容姿、服装などといった人の人格や自由に関する事柄について、企業が企業秩序の維持を名目に労働者の自由を制限しようとする場合、その制限行為は無制限に許されるものではなく、企業の円滑な運営上必要かつ合理的な範囲内にとどまるものというべく、具体的な制限行為の内容は、制限の必要性、合理性、手段方法としての相当性を欠くことのないよう特段の配慮が要請されるものと解するのが相当である。〔中略〕 〔解雇-解雇事由-上司反抗〕 債権者が頭髪を黄色に染めたこと自体が債務者会社の就業規則上直ちにけん責事由に該当するわけではなく(債務者もこのような主張をしているとは解されない。)、上司の説得に対する債権者の反抗的態度も、すでにみたように、会社側の「自然色以外は一切許されない」とする頑なな態度を考慮に入れると、必ずしも債権者のみに責められる点があったということはできず、債権者が始末書の提出を拒否した点も、それが「社内秩序を乱した」行為に該当すると即断することは適当でない。 してみると、本件解雇は、解雇事由が存在せず、無効というべきであるが、仮に、債権者の右始末書の提出拒否行為に懲戒事由に該当する点があったとしても、本件の具体的な事情のもとでは、解雇に処するのが著しく不合理であり、社会通念上相当として是認することができない場合に当たることは明らかであり、いずれにしても、本件解雇の意思表示は解雇権の濫用として無効というべきである。 |