全 情 報

ID番号 07081
事件名 療養補償給付不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 石川島播磨重工業・相生労基署長事件
争点
事案概要  テレックス業務に従事する労働者の手根管症候群の発症につき、療養補償給付を請求したところ、不支給とされたため、その取消しを求めたケースで、その業務起因性が認められた事例(請求認容)。
参照法条 労働者災害補償保険法7条
労働者災害補償保険法13条
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病
労災補償・労災保険 / 補償内容・保険給付 / 療養補償(給付)
裁判年月日 1998年2月13日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (行ウ) 43 
裁判結果 認容(確定)
出典 タイムズ971号136頁/労働判例733号49頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕
 原告の本件疾病(手根管症候群)は、まず新認定基準の認定要件〔1〕を一応満たしていると考えられる(ただし、逆に、約一〇年以上もの間、業務を継続してきたことは、日々の業務自体からくる手指等への負担ないし疲労は、翌日までには十分回復できていたものであることを推認させるのであり、従って、業務による負担・疲労が約一〇年以上にわたり徐々に蓄積して本件発症に至ったものであるとするには疑問が残るから、要件〔1〕についての検討のみから本件症状の業務起因性を肯定することはできない。)とともに、同要件〔2〕〔3〕を満たしていると考えられるのであり、これと以上に検討した諸事情とを総合考慮すれば、昭和四九年後半から昭和五二年前半の業務量の増加により本件発症に至ったものと認められるのであり、業務起因性があるものと認められる。
 なお、原告が業務を離れて治療を開始してから既に一〇年以上経過しているにもかかわらず、なおも症状が持続していることからすると、本件症状に業務のみならず他のなんらかの要因も関与していた可能性を全く否定することには疑問がないではない。しかし、本件発症を医学経験則上納得しうるに足る業務の過重性が認められること、過重な業務への就労と発症経緯とが医学上妥当なものであること、原告が本件テレックス業務に従事していなくとも本件症状が発症していた可能性を認めうる証拠はないこと等からすると、仮に原告の従事していた業務が唯一の原因ではなく他の要因も関与して発症したものであったとしても、少なくとも右業務が相対的に有力な原因となって本件症状が発症したものと認めることができるのであり、やはり業務起因性は肯定される。〔中略〕
〔労災補償・労災保険-補償内容・保険給付-療養補償(給付)〕
 療養補償給付は、当該疾病について療養が必要な場合、すなわち療養によって疾病が軽快するか、軽快しないが悪化するのを防止する効果がある場合に支給されるものである。〔中略〕
 本件症状は、退職以前はもとより、退職後も少なくとも数年間は療養が必要であったことは認められるが、退職時から一〇年以上を経過した現時点においてもなお症状に顕著な軽快傾向を認めることができないことは、ある時点において既に症状固定しており、もはや療養の必要を認めることができない状態である疑いもあり、この点は別途検討を要するところではある(ただし、この場合は障害補償給付の問題となる。)。
 しかし、業務起因性が認められ、少なくとも本件療養補償給付請求にかかる療養期間(乙一によれば昭和六一年一二月)を含むある時点までの療養の必要があったことに変わりはないのであるから、仮に本件処分時(平成元年一〇月)において療養の必要が認められなかったとしても、それによって本件不支給処分が適法となるものではない。