全 情 報

ID番号 07094
事件名 建物明渡請求(本訴)事件
いわゆる事件名 東洋リース事件
争点
事案概要  建設機械のリース等を目的とする会社の独身寮で住み込みの管理人兼賄い婦として雇用されていた者が、嘱託雇用契約関係が更新されず終了したとして独身寮からの立退を請求されたのに対して、右雇用契約関係は終了していないとして雇用関係確認等の請求を求める反訴を提起した事例(本訴棄却、反訴認容)。
参照法条 労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
退職 / 定年・再雇用
裁判年月日 1998年3月16日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 12148 
平成8年 (ワ) 19548 
裁判結果 棄却、認容(確定)
出典 労働判例736号73頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔退職-定年・再雇用〕
 1 被告が一旦定年退職したか否かについて検討する。
 前記のとおり当事者間に争いのない第二、一4、5の事実及び弁論の全趣旨によれば、原告が、当時から被告について就業規則一六条の定年退職の規定の適用があると考えていたことは明白であり、また、被告においても、定年退職扱いという趣旨を理解した上で、特段異議を述べることもなく退職金名目の金員を受領したものと認められる。そして、他に被告について右規定が適用されないと解すべき事情は本件証拠上窺えないから、被告は満五七歳に達した翌日である平成三年五月一五日をもって一旦退職したというべきである。
 この点について、被告本人尋問によれば、被告が定年退職扱いに応じたのは、それまでの周囲の者等の発言内容から定年年齢である満五七歳に達した後も独身寮の管理人兼賄婦の仕事を続けることができると予想していたことに加えて、社長からその場で将来も右の仕事を続けてもらいたい旨の発言があったため等であることが認められるが、被告が定年退職扱いに応じた動機がその点にあることは、入社当時の雇用契約を定年という形で終了させることと矛盾するものではないから右に述べた結論には影響しない。また、被告は、被告採用時における提出書類等が就業規則記載のものではなかった点や、被告の就業時間、休憩、休日及び休暇に関して就業規則上定められていた内容と異なっていた点、及び原告方に従業員として採用されれば自動的に加入手続きが採られる労働組合に被告が一貫して加盟を認められなかった点を指摘して、原告被告間の雇用契約には就業規則は適用されないと主張するが、仮に指摘のとおりの事実関係が存在したとしても、このことから就業規則中の定年制度に関する規定が被告に関して適用されないということには当然にはならない上、前記のとおり原告側ではむしろ被告に対する右規定の適用を当然の前提として行動し、被告もそれを受け入れているとの経過に照らすと、その主張は採用できない。〔中略〕
〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 2 平成三年五月に原告被告間で締結された本件嘱託契約の内容について検討する。
 第二、一6から10の各事実に、(証拠・人証略)、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すると、(一)被告は、本件嘱託契約により管理人兼賄婦としての仕事を行っている期間中に昇給しており、賞与の支給も受けていること、(二)被告は、右期間中の平成三年八月に、定年退職前の雇用契約に基づく期間と通算して勤続一五年になるとして表彰を受けていること、(三)右期間中、当初の一年経過後は、原告社内においては社報に一年単位で契約が更新されることを記載していたが、被告との間では書面・口頭を問わず更新の意思を明確に確認したことはなく、かつ右社報を被告が確実に閲覧できるような配慮もなされておらず、結局のところ、期間経過後も被告が従前と同様の業務に従事し、原告が賃金を支給することで暗黙のうちに契約が更新される関係であったことが認められ、以上の事実関係からすれば、本件嘱託契約は、「嘱託」の名称ではあるが、委任契約等に類似するものではなく、実質は雇用契約であると認めるのが相当である。また、その期間については、当初契約書を作成した段階においては、契約書上に期間が一年であることが明示してあり(〈証拠略〉)、作成の際の状況について、被告本人尋問において、被告自身、説明を受けたことは否定するものの、良く読んで押印するように求められたので被告なりに目を通してから押印したと認めていること等からすれば、一年の期間を定めた契約というべきである。そして、当初の契約が期間を定めたものであり、一応社報には一年単位での更新として記載していたこと等の事情を考慮すると、その後も一年毎に期間の定めのある契約として更新されてきたものと解するのが相当である。本件嘱託契約を期間の定めのない契約であるとする被告の主張には同調できない。〔中略〕
 以上からすれば、本件嘱託契約は期間の定めのある契約ではあるけれども、その雇用期間の実質は期間の定めのない雇用契約に類似するものであって、被告において契約期間満了後も更新により雇用を継続してもらえるものと期待することに合理性があるというべきで、この期待は、期間の定めのない契約において労働者が有する雇用継続への期待と同様、法的保護に値するものといわなければならない。
 (二) 思うに、かような場合には、解雇に関する法理を類推し、解雇であれば解雇権の濫用、信義則違反又は不当労働行為などに該当して解雇無効とされるような事実関係の下に使用者が契約の更新をしなかった場合かどうかを検討すべきである。そして、他方において、労働者側の雇用継続への期待は法的保護に値するとしても、使用者側にも、期間の定めのある契約を締結している以上、期間の定めのない契約を締結している場合よりも雇用契約関係を終了させやすいとの期待があり、合理的差異の範囲内であればその期待も考慮しなければならないので、その点をも勘案した上で、更新しなかったことの適法性を決するべきである。