ID番号 | : | 07104 |
事件名 | : | 解雇無効確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 厚生会共立クリニック事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 被告クリニックの院長として勤務していた医師が、自営開業のために退職した際に、被告クリニックからの従業員の移籍や患者の転院の勧誘、診療録・看護記録のデータの盗用などを理由に懲戒解雇を通告され、その効力を争うとともに損害賠償を請求したのに対して、クリニック側が原告(医師)による営業権侵害を理由に損害賠償を請求した事例(前者につき却下、棄却、後者につき一部認容)。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法1条2項 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / 解雇と争訟・付調停 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 信義則上の義務・忠実義務 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務 |
裁判年月日 | : | 1998年3月25日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成7年 (ワ) 3277 平成8年 (ワ) 267 |
裁判結果 | : | 却下・一部棄却、認容・一部棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例739号126頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-解雇と争訟〕 原告は、自らが提出した退職届により、遅くとも平成七年二月二八日をもって被告を退職したことを当然の前提としているのであるから、現時点において、原告と被告との間に、原告が被告の職員たる地位を有するか否かを巡る争いがあるわけではない。そして、原告は、本件解雇の無効確認が、原告と被告との間の法律関係の確定に必要かつ有益である事情について、何ら主張をしないのであるから、結局、右本件解雇の無効確認は、確認の利益を欠き、不適法というほかはない。 よって、本件解雇の無効確認を求める訴えは、却下を免れないというべきである。〔中略〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕 原告のパソコンには、Yクリニックで人工透析の診療を受けていた患者の住所録や看護サマリー等のデータが記録されており、原告は、実際にこの住所録を使用してYクリニックの患者全員に対する案内状を発送したのである。このことに、原告がYクリニックで人工透析の診療を受けていた患者に、Aクリニックに転院するよう働きかけたとの前記事情を考え併せれば、原告は、原告がYクリニックの患者をAクリニックに転院させることを目的として、右住所録を盗用したというべきである。 もっとも、前記認定の事実によれば、看護サマリー等のデータは、原告がYクリニックにおける診療に利用していたのであるし、その後、被告から原告に対して看護サマリーが交付されたことに照らせば、原告が、退職の際、消去した可能性が否定できず(原告は、本人尋問において、これらのデータは被告を退職する際消去した旨を供述している。)、原告がこれらのデータを盗用したと断定することはできない。 (四) 以上判示の事情を考えると、被告が本件解雇の理由とした事実は、いずれも存在したというべきであり、したがって、被告が本件解雇を行ったことは、不法行為を構成するとはいえない。〔中略〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-信義則上の義務・忠実義務〕 前記認定の事実によれば、Yクリニックを退職した看護婦一三名のうち一二名、事務職員一名及びBほか二名の透析技師がAクリニックに採用されたのであり、このような事態の発生により、Yクリニックは、診療体制に壊滅的ともいえる打撃を受け、診療業務の継続に重大な影響を生じたことは容易に推測できる。そして、原告は、前記認定のとおり、これらの職員にYクリニックからの退職やAクリニックへの就職を勧誘したのであるから、当然に、Yクリニックが右のような状況に陥ることを予期していたというべきである。 (二) 被告の就業規則には、このような行為を直接禁じた規定は見当たらない。そして、原告には、経済活動の自由があるから、被告を退職したり、自ら血液人工透析を行う診療施設を開設すること自体は、原則として自由である。また、原告が診療施設開設にあたり、有能かつ信頼関係のある看護婦等の職員の確保を図るため、Yクリニックの職員を採用することも、必ずしも不当であるとはいえない。しかし、だからといって、原告がどのような行動をとっても許されるというわけではなく、あくまでも社会的に見て相当といえる程度にとどまることが要求されるというべきである。そのような場合に、原告に要求される注意義務の内容については、これを一般的に明示することは困難な面があるが、少なくとも、Yクリニックの経営を左右するほどの重大な損害を発生させるおそれのあるような行為は禁止されると解するのが相当であり、原告は、被告との雇用契約上の信義則に基づき、このような行為を行ってはならないという義務を負担しているというべきである。 しかしながら、原告が行ったYクリニックの職員に対する移籍勧誘の行為は、その態様、被告に与えた重大な影響等前記判示の事情に照らして、右相当性を逸脱したものといわざるを得ない。ことに、原告は、Yクリニックの院長の地位にあり、かつ、被告の理事にも就任していたことに鑑みれば、その責任は重大といわなければならない。 (三) 右判示の次第で、原告がYクリニックの職員に退職を働きかけ、Aクリニックに就職するよう勧誘したことは、原告と被告との間の労働契約における信義則上の義務に反し、債務不履行を構成するというべきである。〔中略〕 右判示の次第で、原告がYクリニックの患者に転院を勧誘したことは、原告と被告との間の労働契約における信義則上の義務に反し、債務不履行を構成するというべきである。〔中略〕 右住所録の盗用は、Yクリニックの患者に対してAクリニックへの転院を勧誘する目的のもとに、その手段として行われたものであるから、この行為もまた、原告と被告との間の雇用契約における債務不履行を構成するというべきである。 |