全 情 報

ID番号 07109
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 学校法人甲南学園事件
争点
事案概要  大学等を設置経営する学校法人Yの教授が、大学が生協と結託・談合して出資金を不正に徴収したとして、その誤った判断に基づき文書を作成し、文部省ほか学内外に多数配布するとともに、これを大書して掲示板に掲示し、大学の右掲示文書の再三にわたる撤去命令に従わなかった等大学の名誉を著しく毀損したとして懲戒解雇され、その効力を争った事例(請求棄却)。
参照法条 労働基準法89条1項9号
労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 会社中傷・名誉毀損
裁判年月日 1998年3月27日
裁判所名 神戸地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 373 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 タイムズ991号182頁/労働判例757号62頁
審級関係 控訴審/07244/大阪高/平10.11.26/平成10年(ネ)1295号
評釈論文 白石史子・平成11年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1036〕360~361頁2000年9月
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-会社中傷・名誉毀損〕
 原告は、被告大学当局と生協首脳部との間に「結託」ないし「談合」があったとする根拠について、双方の人事が重なり合っていること及び被告大学の納付金票に生協出資金が含められていることが、双方の首脳部が連絡を取った上で行われているということを示しているということを述べるに止まり(原告本人)、それ以上の具体的根拠を示しておらず、その他本件全証拠に照らしても、右のような「結託」「談合」を窺わせる事情は認められない。したがって、原告は、その点について充分な調査を尽くすこともなく、「結託」「談合」という不穏当かつ不適切な表現を用いたものであるといえる。また、「詐欺」という文言についても、生協が右のような徴収方法をとったことは、生協出資金の徴収を入学手続時に一括して行うことがその手続上の便宜に資すると考えたにすぎないこともあり得るのであって、実際に、被告大学側及び生協側の真意について調査することなく、漫然とそれを詐欺であると決めつけた原告の行為には問題があったと言わざるを得ない。さらに、原告は、入学辞退者や途中退学者に対して、実際に生協出資金が返還されているか否かについて特に調査することなく、被告大学の入学納付金票に、一旦納付された納付金を一切返還しないということが明記されていること等入学試験要綱の記載のみをその論拠としているが(原告本人)、これも不正を告発する論拠としては不十分なものであるといえる。
 以上によれば、原告は、自らの批判内容について充分な調査を尽くすことなく、しかも右のような不穏当、不適切な表現を用いて、関係者を名指しにした文書を監督官庁である文部省に送付したり、大学の掲示板に掲示したものであり、その行為によって、被告大学及び生協の関係者の名誉を著しく毀損したものと認められる。
 (二) さらに、前記認定のとおり、被告大学当局が、平成二年度の入学試験要綱から、原告によって指摘された問題点を改めた(前記(一三))にもかかわらず、平成二年九月六日に警察庁に、右の生協出資金の徴収方法について告発する文書を送付したり、大蔵省及び会計検査院に対しても同内容の文書を送付しているが(前記(一五)、(一六)。解雇事由〔3〕に該当する行為。)、これらはもはや、大学運営に関する正当な批判行為からかけ離れたものであり、被告大学及び生協関係者の名誉を著しく毀損する悪質な行為であると言わざるを得ない。〔中略〕
 原告が前記の文書を掲示板から撤去するよう命じられたにもかかわらずこれに従わなかったこと、被告側からの再三にわたる事情聴取のための面談あるいは出頭要請に応じなかったこと(前記(五)、(七)、(九)ないし(一四)。解雇理由〔2〕に該当する行為。)及び懲戒委員会からの出頭要請にも応じなかったこと(前記(一七)。解雇理由〔4〕に該当する行為。)を総合考慮すれば、原告が本件解雇によって被る損害として、懲戒解雇ということで金融機関から融資を受けることも困難になり、再就職も困難な状況に置かれていること(原告本人)を勘案しても、被告が、原告を学内から排除することなしにはその秩序を維持できないと判断して懲戒解雇にしたことについて、被告にその裁量権の逸脱ないし濫用があったとは認めることはできない。