ID番号 | : | 07112 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分命令申立事件 |
いわゆる事件名 | : | JR東海(鳥飼車両基地)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | ジェイアール東海労働組合の分会書記長及び副分会長らが、ストライキ開始直前に多数の組合員とともに会社の許可なく車両基地に侵入・滞留し、管理者等に暴言・暴行を加え、器物を損壊したとして懲戒解雇され、地位保全等の仮処分を申し立てた事例(却下)。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用 懲戒・懲戒解雇 / 処分の量刑 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続 |
裁判年月日 | : | 1998年3月31日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成5年 (ヨ) 2957 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労働判例742号44頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕 債権者らは、多数の組合員と共に、会社の許可なく会社施設内に侵入・滞留して会社の施設管理権を侵害し、また、前記暴行暴言をなし、前記管理者に前記傷害を与え、器物を損壊等し、もって職場秩序を著しく紊乱したのであって、右は、就業規則第一四〇条(1)の「法令、会社の諸規程等に違反した場合」、第一四〇条(12)の「その他著しく不都合な行為を行った場合」に該当するものというべきである。〔中略〕 〔懲戒・懲戒解雇-処分の量刑〕 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕 債務者の就業規則第一四一条第一項には、懲戒処分として(1)懲戒解雇、(2)諭旨解雇、(3)出勤停止、(4)減給及び(5)戒告の五種類が規定されているところ、右就業規則は、懲戒権者が懲戒処分の対象者に具体的にどの処分を選択すべきかに関して、その基準を定めていないから、懲戒権者の裁量に委ねられているものと解するのが相当である。もっとも、懲戒解雇処分は、他の処分と異なり、従業員の地位を失わせるという重大な結果を招来するものであるから、懲戒権者の裁量権の範囲も無制限でなく、懲戒事由に該当する行為の動機、態様、結果、当該従業員のその前後における態度、懲戒処分歴、社会的環境、選択する処分が従業員及び社会に与える影響等の諸般の事情に照らし、懲戒解雇処分が当該行為との対比において甚だしく均衡を失し、社会通念上合理性を欠くと考えられる場合には、右懲戒処分は裁量の範囲を超え違法となると解される。 本件は、JR東海労結成以来の債務者と組合との間の緊張、対立関係の中、懲戒戒告等の処分や脱退慫慂に対する抗議を含めた会社に対する要求行動の一環としてされたものということができ、単なる暴行、騒擾行為と同視することはできず、この点についての考慮をすべきであるが、暴力行為等を伴う行動が正当な組合活動といえないことに照らすと、債権者らを含めた組合員らの行動は、明らかに正当な活動の範囲を超えた違法なものというほかなく、その態様も、いわば、多数をもって鳥飼車両基地内に乱入し、管理者らを次々に吊し上げ、暴行及び暴言を加えたと評価しうるものであって、悪質であり違法性の程度が強いといえる。その結果、前記のとおり、管理者らに軽微とはいえ傷害の結果が生じ、また、器物損壊の被害が発生したものであり、著しく債務者の職場規律を乱し、企業秩序を混乱させたことは明らかである。これにつき、債権者ら自らが行った行為につき相応の責任を負わねばならない。そして、本件のように、労使の対立・緊張関係のあるなか、会社管理者等から立入を禁止されている構内に多数の組合員が立ち入り前記抗議行動を行えば、混乱・軋轢・騒擾・暴行等の発生することが当然に予想されるのであるから、組合三役の地位にある幹部としては、組合員の行動を注視し、組合員の違法行為を制止すべき義務があるというべきところ、債権者らは、基地への立入から退去までの間、終始現場に居て同所で発生した前記状況を認識しつつ組合員多数と共に行動し、この間、何らの制止行為をもしないばかりかむしろ積極的に行動していたということができ、現場において右組合員全体の行動を指導・統率していたといえる組合三役の地位にある幹部として、他の組合員のした施設管理権の侵害、暴行、暴言についても相応の責任を負うべきである。 したがって、債権者らは、前記のとおり、自ら看過し得ない施設管理権侵害、暴行、暴言等の違法行為を行ったほか、組合三役という幹部としてなすべき責務を果たさず、前記組合員全体の行動を指導・統率し、前記重大な企業秩序侵害の結果を生じさせたのであるから、それに応じた懲戒処分を受けざるを得ず、本件解雇処分が自らなした行為との対比において甚だしく均衡を失し、社会通念上合理性を欠くとはいえず、懲戒権の濫用があったとはいえない。〔中略〕 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒手続〕 債権者らは、本件解雇処分に当たっては、債権者ら本人に対して何らの弁明の機会も与えられていないから、本件解雇処分は懲戒権の濫用に当たり無効である旨主張する。 しかし、本件においては、基本協約(〈証拠略〉)及び債務者の就業規則(〈証拠略〉)においては、債務者が懲戒等を行うに際して、当該労働者に弁明の機会を与えなければならない旨を定めた規定はない。 そして、現行法上、懲戒解雇処分につき弁明の機会を与えられない場合に、当該処分が無効であると解することはできない。 |