全 情 報

ID番号 07114
事件名 破産債権確定請求事件
いわゆる事件名 ブルーハウス事件
争点
事案概要  和洋家具、室内装飾用具の卸小売を業とする株式会社が破産宣告を受けたことにつき、解雇された労働者が、休日労働についての割増賃金の一部が未払いになっているとして、右未払い賃金につき破産債権確定請求を行った事例(認容)。
参照法条 労働基準法37条
労働基準法24条
労働基準法115条
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 支払い義務
雑則(民事) / 時効
賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺
賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1998年3月31日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 1831 
平成9年 (ワ) 2247 
平成9年 (ワ) 2621 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例740号45頁
審級関係
評釈論文 山川隆一・ジュリスト1152号180~182頁1999年3月15日
判決理由 〔賃金-割増賃金-支払い義務〕
 使用者が、労働契約又は従業員との個別的同意に基づいて休日と定められた特定の日を労働日に変更し、代わりに本来は労働日である特定の日を休日に変更する措置(休日振替措置)を執ることも可能であり、このような措置を執った場合には、もともと休日と定められた特定の日が労働日となり、従業員に労務提供義務が生じることから、使用者としては通常の賃金を支払えば足り、割増賃金を支払う義務はないと解されている。しかしながら、このように使用者が労働者に休日労働をさせながら割増賃金支払義務が免除されるのは、現実に、事前又は事後の特定の労働日を休日に振り替えた場合に限られるというべきである。なぜなら、前記のとおり、労働基準法は、使用者が労働者に休日労働をさせた場合には割増賃金を支払うことを原則としているのであり、このように考えなければ同法三五条が休日を設けて労働者の健康等を配慮しようとした趣旨が没却されるからである。
 本件において、破産会社は、前記のとおり、従業員に休日出勤をさせた場合、事後的な休日として代休の取得を認めていたものの、現実に特定の労働日を休日に振り替えていたわけではないから、前記のような休日振替措置と同視することはできない。破産会社におけるこのような休日出勤及び代休取得の扱いは、労働基準法三五条の規定の趣旨にそぐわず、その相当性に問題があるというべきであるが、それはともかく、原告らが休日出勤をしながら特定の労働日が休日に振り替えられなかった分、すなわち、原告らにおいて現実に代休を取得しえなくなった分については、同法三七条一項が定める原則どおり、使用者に割増賃金支払義務があるというべきである。〔中略〕
〔雑則-時効〕
 原告らは、破産会社に対し、それぞれ少なくとも別紙2届出債権一覧表「休日出勤手当」欄記載のとおりの給料債権(一般の優先権ある破産債権)を有することになるが、被告らが、本訴において労働基準法一一五条による二年の消滅時効を援用したので、原告らそれぞれにつき、時効中断の日である債権届出の日から遡って二年以内に支払われるべきであったものに限って認容すべきである。〔中略〕
〔賃金-賃金の支払い原則-全額払〕
 使用者は、従業員に対し、原則として賃金の全額を支払わなければならず(賃金全額払いの原則、労働基準法二四条一項)、賃金の一部控除が許されるのは、法令に別段の定めがある場合又は労働者の過半数で組織する労働組合(そのような労働組合がないときには、労働者の過半数を代表する者)との書面による協定がある場合に限られる(同条項但書)。
 破産会社における積立金名目の控除は、同条項但書にいう賃金の一部控除にほかならないから、これが認められるためには法令の定め又は右のような労働組合等との協定があることが必要であるところ、かかる法令の定めはなく、また、破産会社において右のような協定が存在したことについてはこれを認めるに足りる証拠がない。さらに、原告らが個別に積立金名目の控除につき同意していたとの事実もこれを認めるに足りる証拠はない。したがって、右の積立金名目での控除は、賃金全額払いの原則に違反するものであって、無効といわざるを得ない。〔中略〕
〔雑則-時効〕
 原告らは、破産会社に対し、それぞれ入社以来平成八年一二月までの月数に一〇〇〇を乗じた金額の給料債権(一般の優先権ある破産債権)を有することになるが、被告らが、本訴において、労働基準法一一五条による二年の消滅時効を援用したので、原告らそれぞれにつき、時効中断の日である債権届出の日から遡って二年以内に支払われるべきであったものに限って認容すべきである。
〔賃金-賃金の支払い原則-全額払〕
 従業員の個別的な同意を理由に賃金全額払いの原則に対する例外を認めるべき場合があるとしても、そのような例外を認めるためには、当該控除に合理的な理由があり、かつ、控除を受ける従業員の同意が自由な意思に基づくものであることを要するというべきであり、また、右同意が労働者の自由な意思に基づくものであるとの認定判断は、賃金全額払いの原則の趣旨から、厳格かつ慎重に行わなければならないというべきである(最二小判平成二年一一月二六日民集四四巻八号一〇八五頁参照)。〔中略〕
〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 破産会社の退職金規程(〈証拠略〉)が、三条において、勤続三年以上の従業員に退職金を支給する旨明記しているのであり、そして、これに続く四条で、退職金の額は、退職時の算定基礎額に勤続年数に応じた支給基準率を乗じることによって算出する旨、さらに、五条柱書きで勤続年数の計算は次のとおりとするとしたうえ、その二号で、勤続年数の一年未満は、その端数が六か月以上のときは一年に切り上げ、六か月未満のときはこれを切り捨てる旨定めているのであるから、右五条二号は、被告らの主張するとおり三条により退職金の受給資格が認められる勤続三年以上の従業員について、退職金支給基準の基礎となる勤続年数を定めたものと解するのが相当である。
 原告大越は、前記のとおり、勤続三年に満たないのであるから、退職金の受給資格はないものといわざるを得ない。