ID番号 | : | 07116 |
事件名 | : | 退職年金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 幸福銀行事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 本件における退職年金の法的性質は、賃金の後払い的性格は希薄であって、主として功労報償的性格の強いものであるとされた事例。 退職年金の上積み支給部分につき、経済状勢の変動等により改訂することがある旨の規定が有効とされた事例。 退職年金の上積み支給部分についての労使慣行は成立していたが、改訂条項の存在を前提にしたもので、改訂後は効力を有しないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条1項3号の2 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働慣行・労使慣行 賃金(民事) / 退職金 / 退職金の法的性質 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算 賃金(民事) / 退職金 / 退職年金 |
裁判年月日 | : | 1998年4月13日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成8年 (ワ) 6311 平成9年 (ワ) 8371 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | タイムズ987号207頁/労働判例744号54頁/労経速報1681号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 山下昇・法政研究〔九州大学〕66巻1号361~370頁1999年5月/森戸英幸・労働判例百選<第7版>〔別冊ジュリスト165〕102~103頁/大内伸哉・ジュリスト1154号137~139頁1999年4月15日/中原正人・労働判例755号7~14頁1999年5月1日/藤原稔弘・法律時報71巻12号118~121頁1999年11月/有田謙司・平成10年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1157〕215~217頁1999年6月 |
判決理由 | : | 〔賃金-退職金-退職金の法的性質〕 〔賃金-退職金-退職年金〕 このように、被告の退職年金(ただし、規定額の範囲内に限る。)は、退職金規定に根拠を有し、労働契約上その支払が義務づけられるものではあるが、被告においては、退職年金と併せて退職一時金も支給され、その額は、他の同業、同規模の会社と比較して特に低額ではなかったこと(〈証拠・人証略〉)、退職年金の支給期間が終身とされているうえに、年金受給中に死亡した退職者の配偶者にもその半額が支給されるものとされていること等を勘案すれば、被告の退職年金は、賃金の後払い的性格は希薄であって、主として功労報償的性格の強いものであるというべきである。〔中略〕 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕 〔賃金-退職金-退職年金〕 一方、前記認定の事実によれば、被告は、原告X1を除く原告らに対し、退職後年金通知書を交付することによって、右年金通知書に記載された金額(原告ら主張の額)の退職年金を終身にわたり支給する旨約したというべきであるから、右年金通知書の交付時に、被告と原告X1を除く原告らとの間に、原告ら主張の額を退職年金として支給する旨の個別の合意が成立したというべきである(なお、原告X1については、年金通知書が交付されたことを認めることができないから、右合意の成立は認められない。)。もっとも、右年金通知書には、前記のとおり、「年金は経済情勢及び社会保障制度などの著しい変動、又は銀行の都合により之を改訂することがあります。」と明記されており(本件訂正変更条項)、証拠(〈証拠略〉、原告X2本人、原告X3本人、原告X4本人、原告X5本人)によれば、原告らは、いずれも、本件訂正変更条項が存在することを認識したうえで退職年金の受給を開始したことが認められるから、右合意においては、退職金の支給開始後に、社会情勢や社会保障制度の著しい変動や被告銀行の都合により、被告においてその支給額を改定することができることが当然の前提とされていたものと認められる。そして、被告の退職年金は、前記のとおり、もともと功労報償的性格が強いものであるうえに、規定額を超える部分(以下「上積支給部分」という。)は、退職金規定上支払義務のないものであり、恩恵給付的性格の強いものであると考えられることに鑑みると、このような訂正変更条項も有効であると解すべきである(もっとも、右条項によって退職年金の額を規定額以下に減額することは、退職金規定自体を変更しない限り許されないものと考えられる。)。〔中略〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働慣行〕 〔賃金-退職金-退職年金〕 前記認定の事実によれば、被告においては、昭和三七年四月に退職年金制度が創設されて以来、退職金規定において定められた年金の額(規定額)は現在に至るまで変化がないものの、遅くとも昭和五二年八月以降は、規定額の三倍程度の年金を支給するのが慣行となっており、右慣行は、すべての退職者について一律に適用されてきたもので、その金額も退職者の退職時の職位及び勤続年数によって一律に定まるものであったこと、原告X1を除く原告らが平成八年三月まで受け取っていた年金の額(原告X1については、同原告主張の額)は、右慣行に従って計算された金額と一致することが認められるのであって、これらの事実によれば、被告において支給されていた退職年金は、上積支給部分についても、これが各退職者との間の個別の合意のみに基づき全く任意に支給されていたものとはいい切れないというべきであり、原告らと被告との間で、退職年金として原告ら主張の額を支給する旨の労使慣行が成立していたと見る余地がある。〔中略〕 しかしながら、退職年金の受給権を有する退職者に対し、一貫して交付されてきた年金通知書には、本件訂正変更条項が明記されていたのであるから、右労使慣行においても、退職金の支給開始後に、社会情勢や社会保障制度の著しい変動や被告銀行の都合により、被告においてその支給額を改定し得ることが当然の前提とされていたものと認められる。 |