ID番号 | : | 07121 |
事件名 | : | 遺族補償年金給付等不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日の丸自動車・足立労基署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | タクシー会社の乗務員(運転手)が、出番(乗務日)、明番(非乗務日)、出番(乗務日)、明番(非乗務日)、公休の五日の周期で、乗務日の所定拘束時間が午前六時三〇分出勤、七時出庫、翌日午前一時帰庫、一時三〇分終業の一九時間(うち三時間休憩時間)の勤務形態をとって就労していたが、業務中に急性心筋梗塞で死亡したケースで、遺族が、右死亡はタクシー運転業務の過重性によるものであるとして遺族補償不支給処分の取消しを求めた事例(棄却)。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法7条1項1号 労働者災害補償保険法12条の8 労働者災害補償保険法16条 労働者災害補償保険法17条 労働基準法施行規則別表1の2第9号 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 脳・心疾患等 |
裁判年月日 | : | 1998年4月23日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成7年 (行ウ) 255 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例738号13頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 労災保険法に基づく保険給付は、労働者の「業務上」の災害(負傷、疾病、障害又は死亡をいう。以下同じ。)について行われるものであり(七条一項一号、一二条の八、遺族補償につき一六条等、葬祭料につき一七条)、労働者が「業務上」死亡したといえるためには、業務と死亡との間に相当因果関係のあることが必要である(最高裁判所第二小法廷昭和五一年一一月一二日判決・裁集民一一九号一八九頁、判時八三七号三四頁参照)。そして、労災保険制度は、業務に内在又は随伴する危険が現実化した場合に、それによって労働者に発生した損失を補償するものであることに照らせば、業務と災害との間に相当因果関係が認められるかどうかは、経験則及び医学的知見に照らし、業務がその災害発生の危険を内在又は随伴しており、その危険が現実化したということができるか否かによって判断すべきものと解される。もっとも、心筋梗塞のような虚血性心疾患の発症は、被災者に血管病変等が存し、それが何らかの原因によって破綻して発症に至るのが通常であると考えられているから、業務が虚血性心疾患を発症する危険を内在又は随伴していると認められるためには、単に業務がその虚血性心疾患の発症の原因となったというだけでは足りず、業務による負荷が血管病変等をその自然的経過を超えて急激に著しく増悪させ得る態様のものであることが必要である。〔中略〕 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-脳・心疾患等〕 Aは長期にわたり深夜に及ぶ長時間のタクシー運転業務により、慢性的な過労状態や生理的リズムが乱れた状態に陥っており、これが運転中の血圧上昇と相まって動脈硬化をもたらしたとする点は、先に判示したとおり、本件発症前のAの業務内容について平均的なタクシー運転手の勤務状況と比較して過重なものであったと認めるに足りる証拠はないうえ、「医学上、高血圧治療中の五〇歳の男性がある朝突然に心筋梗塞を発症して三時間後に急死するということは、業務中であったか否かや、過度の業務によるストレスの有無にかかわらず、普通に起こり得ることである。Aは、喫煙、性及び年齢というリスクファクターを有していたのであるから、業務やそれによるストレスがなくても、心筋梗塞発症の危険性は低いものではなかった。」とのB医師の意見(〈証拠略〉)及び「ストレスは高血圧や動脈硬化の発生因子として重要な役割を果たしている。しかし、ストレスによって発生する高血圧症は一過性であり、持続性の本態性高血圧症は、ストレスによっては発症しない。Aの場合、本件発症直前に強い感情的興奮を生じたかどうかが問題となるが、発症当日は何ら予期せぬ出来事はなかったのであるから、強い感情的興奮が原因で心筋梗塞を発症したとは考えられない。もっとも、自動車の運転という労働に比例した血圧上昇は当然あったと考えられ、また、過去の事故の経験が防御・警告反応となって血圧上昇を招いた可能性はあるが、問題となっている事故はいずれも、それほど強烈な精神的ダメージを伴うものであったとは考えられない。したがって、本件発症は、高血圧の自己管理が適切に行われなかったことと、早朝に自然に生じる血圧上昇や動脈壁の緊張度の高まりが原因となったものと推定される。」とのC医師の意見(〈証拠略〉)に照らして、直ちに採用しがたい。 4 以上のとおり、本件発症前のAの業務が過重であったとは認められないうえ、B医師及びC医師の各意見を踏まえて、Aの健康状態に加えて、Aが五〇歳の男性であること、毎日二〇本程度の喫煙習慣を有していたことをも併せ考慮すれば、Aの死亡原因となった心筋梗塞は、業務による負荷が同人の有していた血管病変等をその自然的経過を超えて急激に増悪させた結果発症したものと認めることはできない。 |