全 情 報

ID番号 07122
事件名 労働契約確認等請求事件
いわゆる事件名 協栄テックス事件
争点
事案概要  医大病院の患者給食部門で食器洗浄等の業務に従事していた特別勤務者(期間雇用のパートタイマー)が、更新拒絶により雇止めを受け、労働契約上の地位確認、未払い賃金の支払を求めていたケースで、被告側が正規従業員の定年年齢である満六〇歳到達を理由に労働契約上の権利を失ったと主張した事例(一部認容、一部棄却)。
参照法条 労働基準法2章
民法1条3項
体系項目 解雇(民事) / 短期労働契約の更新拒否(雇止め)
退職 / 定年・再雇用
裁判年月日 1998年4月24日
裁判所名 盛岡地
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 217 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例741号36頁/労経速報1677号6頁
審級関係
評釈論文 菅原一郎・労働法律旬報1436号42~45頁1998年7月25日/島田陽一・法律時報71巻3号103~106頁1999年3月
判決理由 〔解雇-短期労働契約の更新拒否(雇止め)〕
 右認定の事実によれば、原告らは、最初の労働契約の締結時に雇用期間についての明確な説明がなく、また、原告X1については相当回数更新を重ねてきたといった事情を考慮しても、毎年期間を一年と明確に定める雇用契約書に署名押印してその契約書の交付を受けていたのであるから、その契約内容を了知していたものといわざるを得ず、被告の業務形態、その就業規則の内容など右認定にかかる事実からすれば、原告らと被告との労働契約が原告らが主張するような期間の定めのない労働契約であるとか、あるいは実質的には期間の定めのない労働契約と同視できるものであるとまで認めることはできない。
 そうすると、本件意思表示が解雇あるいは解雇の法理を類推適用すべきことを前提とする原告の主張は理由がない。〔中略〕
 たとえ期間の定めのある労働契約であったとしても、労働者において、その更新について相当程度の期待がもたれる事情が認められ、一方、雇用者においても更新を拒絶するについて正当な理由がない場合には、右更新拒絶は権利の濫用として無効になると解するのが相当である。これを本件についてみれば、原告らと被告の間の労働契約については、原告らにおいて、医大病院の現場での業務に特段の事情の変更がないところから、これまでと同様に右契約が更新されることについて相当程度の期待を持ち得る事情があり、他方、被告においても、原告らのようなパートタイム従業員について、特段の事情の変更がなければ当然に労働契約を更新するのが通例の扱いであったのに、前記したとおり、その勤務態度につきとりたてて問題もない原告らについて、訴外労働組合に加入していたというただそのことをもって右契約の更新を拒絶したものというべきであり、右更新拒絶に正当な理由があると言えないことは明らかであるから、本件意思表示は権利の濫用として無効なものと解するのが相当である。
 (二) 右のように、期間の定めのある労働契約の更新拒絶が無効である場合には、従前の労働契約が当然に更新され、その結果、その更新の蓋然性が認められる限りにおいて、原告らと被告との間で従前と同様の条件による労働契約が、継続していくものと解すべきである(なお、更新拒絶が無効となる前提として、前記のとおり、更新されるのが通例である状況が認められるべきであるから、右前提がある以上、たとえ期間の定めのある労働契約といえども、右契約の更新は翌期に限られず、更新の蓋然性が認められる限り、翌々期以降も更新が継続していくものと解すべきである。)。
〔退職-定年・再雇用〕
 期間の定めのある労働契約が、雇用者の雇止めの意思表示の無効によって更新されたとみなされる場合であっても、これが期間の定めのない労働契約に転化するものではなく(このことは、被告の特別勤務者中、原告らのみが、期間の定めのない優越的な地位に立つことの不合理さを考えれば明らかである。)、あくまでも、労働契約上の地位が存続するか否かは、その後も更新を重ねられるか否かの蓋然性によるべきところである。
 そうすると、被告の従業員について定められた定年制が直ちに原告らに適用されるものではないとしても、右従業員の定年が六〇歳であって、たとえ従業員であったとしても当然に再雇用が認められるわけではないことに鑑みると、少なくとも、原告らにつき、満六〇歳に達する月の末日までは右契約上の地位の存続の蓋然性を認めることができるが、それ以降については、右時期が更新の一応の見直し時期と解される以上、存続の蓋然性を認め得ることはできないものというべきである。
 そうすると、原告X1については平成一〇年三月末日、原告X2については平成八年八月末日をもって、いずれも労働契約上の権利を失ったものというべきである。