ID番号 | : | 07127 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 佐川急便事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | トラック運転手として荷物の集荷運搬業務に従事してきた労働者が、腰痛(非災害性の腰痛)にかかったのは、会社が安全配慮義務に違反する過重な労働をその労働者に強いていた結果である等として損害賠償を請求した事例(一部認容)。 |
参照法条 | : | 民法415条 民法1条2項 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 1998年4月30日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成8年 (ワ) 1763 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例741号26頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 原告は、実質的にはA会社の指揮命令下にあったといえるB会社及びA会社において、連日長時間にわたって荷物の配達、運搬、集荷、仕分け、積込み、積卸し等といった腰に負担のかかる業務を継続した結果、腰痛を発症し、その後も適切な治療を受けることができないまま業務を続けたために腰痛が悪化し、平成二年には休業のやむなきに至り、約一年余りにわたって治療を受けたものの、症状に改善は見られたが完治するには至らず、そのまま再び荷物の取扱いを中心とした構内業務に従事する等した結果、約四五キログラムの荷物を持ち運んだ際に再度腰痛が悪化し、再び休業治療のやむなきに至ったものと認められる。〔中略〕 使用者は、信義則上、労働契約に付随する義務として、労働者に対し、業務の執行にあたり、その生命及び健康に危険を生じないように具体的状況に応じて配慮すべきいわゆる安全配慮義務を負っているものと解するのが相当である。 そして、証拠(〈証拠略〉)によれば、労働省は、昭和四五年七月一〇日付け基発第五〇三号をもって「重量物取扱い作業における腰痛の予防について」と題する通達を出し、これによれば、人力を用いて重量物を直接取り扱う作業における腰痛予防のため、使用者は、〔1〕満一八歳以上の男子労働者が人力のみにより取り扱う重量は五五キログラム以下になるよう務め、また、五五キログラムをこえる重量物を取り扱う場合には二人以上で行うよう務め、そしてこの場合各々の労働者に重量が均一にかかるようにすること、〔2〕取り扱う物の重量、取扱いの頻度、運搬距離、運搬速度等作業の実態に応じ、休息または他の軽作業と組み合せる等して、重量物取扱い時間を適正にするとともに、単位時間内における取扱い量を労働者の過度の負担とならないよう適切に定めること、〔3〕常時、重量物取扱い作業に従事する労働者については、当該作業に配置する前及び六か月ごとに一回、(1)問診(腰痛に関する病歴、経過)、(2)姿勢異常、代償性の変形、骨損傷に伴う変形、圧痛点等の有無の検査、(3)体重、握力、背筋力及び肺活量の測定、(4)運動機能検査(クラウス・ウエバー氏テスト、ステップテストその他)、(5)腰椎エックス線検査について、健康診断を行い(ただし、(5)の検査については当該作業に配置する前及びその後三年以内ごとに一回実施すれば足りる。)、この結果、医師が適当でないと認める者については、重量物取扱い作業に就かせないか、当該作業の時間を短縮する等、健康保持のための適切な措置を講じること、とされていることが認められるところ、右通達は、使用者の労働者に対する安全配慮義務の内容を定める基準になると解するのが相当である(なお、右通達は、平成六年九月六日付け基発第五四七号の通達をもって廃止されたが、使用者が講じるべき腰痛予防対策の内容は、同通達によりさらに詳細かつ具体化している。〔中略〕 前記認定事実によれば、被告が前述した安全配慮義務を尽くしていれば、原告が腰痛を発症し、あるいはこれを増悪させ、その結果、長期間にわたって休業治療のやむなきに至ることはなかったこともまた明らかである。 したがって、被告は原告に対し、安全配慮義務違反に基づく責任を負う。〔中略〕 原告の平成元年一一月、一二月及び平成二年一月の平均収入が日額二万五一四八円であったことは当事者間に争いがないところ、原告は、原告の逸失利益は右収入を基礎として算定すべきであると主張するのに対し、被告は、右収入よりも低額の構内業務における原告の平均収入を基礎に算定すべきであると主張する。 ところで、右平均収入は、被告が安全配慮義務に違反する過重労働を原告に強いていたときの収入であるところ、仮に被告が前述した安全配慮義務を尽くしていれば、原告が右程度の収入を得ることはできなかったと推認される。そうすると、これを基礎として原告の逸失利益を算定することは相当でないというべきである。 そこで、原告の逸失利益を算定するにあたっては、被告の業務の内容、原告の年齢等本件に顕れた一切の事情を考慮し、日額一万八〇〇〇円を基礎とするのが相当である。〔中略〕 金銭債務の不履行を理由とする損害賠償請求事件訴訟を提起するために要した弁護士費用は、一般的には、右債務の不履行による損害に含まれないと解されているが、少なくとも当該債務が債権者の生命又は身体を保護することを目的とする場合には、右債務の不履行に基づく損害賠償請求については、不法行為に基づく損害賠償請求と同様に扱うのが相当である。したがって、安全配慮義務の不履行を理由とする本件損害賠償請求訴訟においては弁護士費用も請求することができると解する。 |