全 情 報

ID番号 07130
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 レブロン事件
争点
事案概要  整理解雇につき、(1)人員削減の必要性、(2)整理解雇を選択する必要性、(3)対象者選定の合理性、(4)整理手続の妥当性の要件が満たされる必要があるが、本件では右要件は満たされているとして、整理解雇が有効とされた事例。
参照法条 民法1条3項
労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 解雇(民事) / 解雇権の濫用
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の要件
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の必要性
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務
解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性
解雇(民事) / 整理解雇 / 協議説得義務
裁判年月日 1998年5月20日
裁判所名 静岡地浜松支
裁判形式 決定
事件番号 平成9年 (ヨ) 48 
裁判結果 却下
出典 労経速報1687号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇権の濫用〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の要件〕
 二 いわゆる整理解雇が有効とされるためには、一般に、〔1〕人員削減の必要性、〔2〕人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性、〔3〕整理対象者選定の合理性、〔4〕整理手続の妥当性の要件を満たすことが必要と解されるところであり、前記疎明事実に基づき、右要件の有無につき検討する。
〔解雇-整理解雇-整理解雇の必要性〕
 1 人員削減の必要性
 前記のとおり、債務者は、昭和五四年以降、恒常的な赤字経営の状態にあり、昭和五七年以降、希望退職者の募集等、度重なる経営合理化が実施されてきたが、なお累積赤字は拡大し、平成七年度の期末末処分損失は約五四億円に及んだこと、そのため、債務者は、唯一の株主であるA会社アメリカ本社の意向を受けて、平成八年三月、カウンセリング販売活動の中止、同事業部門の閉鎖、製品の海外生産移行、業務縮小等の経営方針を定め、それに伴い、カウンセリング販売活動に直接携わってきた美容部員及び関連部門の従業員について人員削減を行う旨決定し、組合との協議を経て、希望退職者を募集したこと、その結果、美容部員については目標数に達する応募があったものの、関連部門の従業員については目標数に達する応募がなく、債務者の策定した部門別人員計画によると人員余剰がなお一二名あるとされたこと、うち、浜松オペレーションセンターについてはカウンセリング販売の中止や業務の合理化に伴い業務量が減少したとして、地方営業所勤務のクラークについてはカウンセリング販売の中止や営業管理の東京一括集中体制がとられたことにより業務量が減少したとして、いずれも余剰人員があるものと判断されたことが認められるところであり、債務者は、会社は財政上破産寸前の状態になっており、本件のような合理化策を実施しないとすると、日本における事業を全面的に中止することも考慮せざるをえないと主張しているところ、右の判断過程に不自然不合理な点は認められず、右の人員削減は企業の合理的運営上やむを得ない必要に基づくものと認められる。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕
 2 人員削減の手段として整理解雇を選択することの必要性
 前記のとおり、債務者は、昭和五四年以降、数次にわたる希望退職者の募集、袋井工場の閉鎖、旧B会社に対する営業譲渡、不採算店の閉鎖等の経営努力を行ってきたが、累積赤字は増大を続けたため、平成八年三月にカウンセリング販売の中止等の新たな経営方針を決定したこと、その後、債務者はこれらに伴う人員の削減について希望退職者の募集によりその解決を図るべく、組合との協議を重ね、一部その要望を受け入れながら、特別退職金を増額するなどして、数回にわたり、希望退職者の募集を行ってきたが、なお、一二名の余剰人員を解消することができなかったものとして、本件解雇に及んだことが認められるところであり、債務者は整理解雇を回避するための努力を尽くしたものであって、人員削減の手段として整理解雇を選択することはやむを得ない必要に基づくものと認められる。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕
 3 整理対象者選定の合理性
 前記のとおり、債務者は、平成九年二月一三日ころ、個人別評価表の記入用紙の書式案を組合に示したうえで(但し、組合はこれについての協議を拒否した)、各部門長に当てて、個人別評価表への記入を求め、これに基づく人事評価が低位であった者から順に選定することとし、かつ、効率的業務遂行の面を選定の対象とすることとして、被解雇者を選定したものであり、債務者が不合理な解雇基準をたてたり、組合の意向を全く無視して評価基準をたてたりしたものではなく、具体的な被解雇者の選定過程は前記一6記載のとおりであって、右評価は従前定期的な考課を行ってきた各部門長が担当しているところ、その具体的な評価にあたって、重大な事実誤認や不公平で恣意的判断がなされたことを窺わせる資料や、債権者らに対して偏見をもってなされたことを窺わせる資料等はなく、被解雇者の選定は合理的に行われたものと推認されるところである。〔中略〕
〔解雇-整理解雇-協議説得義務〕
 4 整理手続の妥当性
 前記のとおり、債務者は昭和五四年以降累積赤字を増大させてきたものの、従来はA会社アメリカ本社の経営方針に基づく営業を継続してきており、昭和五四年以降実施されてきた数次の人員削減に際しても整理解雇がなされたことはないこと、平成八年度中に美容部員一一〇名が希望退職の募集に応じ、カウンセリング業務廃止の目的は一応達成できたものとみられるところであり、これらの諸事情に照らすと、組合や従業員らとしては、人員削減問題の解決は希望退職者の募集等によってはかられ、整理解雇が行われることは予想していなかったものとみられ、債務者としても、従来、希望退職者の応募が目標数に達しなければ整理解雇を行う旨、組合や従業員らに明示的に告げたことはないこと、債務者は、平成九年三月中旬、組合に対し、同月中に人員削減問題の決着をはかる旨繰り返し説明し、その前後ころから、部門別人員配置計画の作成、個人別評価の実施等の作業を行うなど、本件解雇通知に向けての直前手続が、従前の債務者と組合との協議状況等に比し、性急になされた嫌いがあり、債権者らや組合にとって、本件解雇通知は唐突になされたものであり、組合と十分に協議を尽くさないままなされた一方的なものと受け取られたのも無理からぬところがあるものというべきである。