ID番号 | : | 07135 |
事件名 | : | 地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 原岸町森林組合事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 森林組合において部下の越境伐採の責任、参事としての職責放棄の責任等を理由とする懲戒解雇につき、懲戒解雇事由があったとはいえないとして、右懲戒解雇が無効とされた事例。 森林組合において部下の越境伐採に伴う損害賠償責任に関し、上司である参事の監督責任が問われ、森林組合による上司に対する求償権の行使が認容された事例。 |
参照法条 | : | 民法709条 民法715条 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 部下の監督責任 |
裁判年月日 | : | 1998年5月29日 |
裁判所名 | : | 釧路地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成7年 (ワ) 160 平成8年 (ワ) 50 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例745号32頁/労経速報1682号23頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-部下の監督責任〕 前記前提事実によれば、本件越境伐採による伐木の販売収入は全て被告組合に入金されており、原告が個人的利益を得たことを窺わせるような証拠は全くなく、原告に故意に越境伐採をするような動機が見い出せないこと、右動機につき証人緒方が述べるところはあいまいであること、証人緒方が原告に対し個人的に快くない感情を持っていることは同証人の自認するところであること等に鑑みると同証人の証言は原告本人尋問の結果(第一、二回)に照らし採用することができず、他に原告が故意に越境伐採をしたことを認めるに足りる証拠はない。 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務命令拒否・違反〕 3 参事としての職責放棄等の主張について (一) 被告組合は、原告が第一次処分について不満な言動や反抗的態度を示した旨主張するところ、前記認定によれば原告が処分通知書を受け取ろうとせず、在席命令に従わず理事会から理由を述べずに退席し、弁明の機会を与えられながら出席せず、理事会の開催手続を行わない等の反抗的態度をとったことが認められる。しかしながら、前記認定によれば、原告は本件越境伐採が発覚した当初から一貫して本件越境伐採は原告の知らないところで緒方が勝手に行ったもので原告が指示したことはないと主張していたこと、平成四年一〇月に損害額の一〇パーセントを損害賠償として支払う旨の提示を受けたときも事案の真相が明らかにされていないので承服できないと述べていたこと、結局、本件越境伐採の直接の原因が不明のまま第一次処分が行われていることから、原告において、右処分に不服を抱き、もはやこれ以上従前と同様の説明を繰り返しても仕方ないと判断したとしても無理からぬものがあり、理事会においても原告が処分に応じない理由を十分に把握していたものというべきであるから、原告が処分通知書を受け取らず、理由を述べずに退席したことが直ちに懲戒解雇事由に該当するということはできないものというべきである。また、前記認定によれば、平成五年八月六日の理事会の開催については議事録に署名押印がないことから原告と組合長の合意のもとに開催を見送ったもので、原告が開催を不当に拒否したものとはいえないし、その後に開催を要請された理事会は原告を懲戒解雇するかどうかの理事会であるから、その開催手続を処分の当事者である原告が拒否したことをもって懲戒解雇事由とすることはできないと解するのが相当である。〔中略〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-部下の監督責任〕 二 争点2(本件越境伐採についての被告組合の求償権の有無)について 1 原告が故意に本件越境伐採をしたと認めることができないことは前記説示のとおりであるが、原告は被告組合の日常業務の最高責任者である参事として、部下が越境伐採をしないよう防止すべき雇用契約上の義務を負っているものと解すべきところ、前記認定のとおり原告は本件越境伐採の直前に、標茶町との境界に疑問を持ったのであるから、本件越境伐採が行われないよう現場の状況に注意すべきであったのにこれを怠り越境伐採を発生させた過失があり、右により損害を賠償した使用者からの求償義務を免れないものというべきである。原告は本件越境伐採は部下が故意に行ったものであるから道義上の責任を負うに過ぎないものと主張するが、本件越境伐採が原告の部下の故意によって行われたことについてはこれを認めるに足りないから、原告の右主張は失当である。 もっとも民法七一五条三項に基づく雇用者の被用者に対する求償権の行使については全額の行使が常に許されるものでなく、諸般の事情に照らし信義則上相当と認められる範囲に限って行使が許されるものと解すべきである。これを本件についてみるに、本件越境伐採は原告の故意に基づくものではなく、原告には監督上の過失が認められるにとどまること、前記認定のとおり被告組合は本件越境伐採につき、既に第一次処分において、過失による伐採であることを前提に就業規則七四条に基づき原告の損害賠償債務を八五万円とする通知を行っていること等の諸般の事情を総合すると、被告組合の原告に対する求償権の行使は信義則上、八五万円の限度で許されるものと解すべきである。 |