全 情 報

ID番号 07136
事件名 退職金等損害賠償請求控訴事件
いわゆる事件名 日本コンベンションサービス事件
争点
事案概要  新会社を設立し、従業員に対し移籍を勧誘したことを理由とする懲戒解雇は有効であるが、退職金不支給規定は退職日又は懲戒解雇の日まで周知されておらず、さらに既得権を奪う不合理なものであるとして、本件労働者の関係では無効とされた事例。
 取締役支店長、支社次長による新会社の設立に際し、従業員らに移籍を勧誘したことなどは不法行為に当たるとして、損害賠償請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 競業避止義務
労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務
賃金(民事) / 退職金 / 懲戒等の際の支給制限
裁判年月日 1998年5月29日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ネ) 3747 
平成8年 (ネ) 3745 
裁判結果 一部認容、一部棄却(上告)
出典 労働判例745号42頁/労経速報1691号3頁
審級関係
評釈論文 細谷越史・民商法雑誌121巻1号113~122頁1999年10月/小畑史子・労働基準52巻7号24~28頁2000年7月/森鍵一・平成11年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1036〕224~225頁2000年9月/森戸英幸・ジュリスト1171号103~106頁2000年2月1日/中内哲・法律時報72巻2号89~92頁2000年2月
判決理由 〔賃金-退職金-懲戒等の際の支給制限〕
 A会社が、原告Xらの退職の日までに、新規程を一般的に従業員に周知した事実を認めることができない。そして、新規程は、前示のように従業員側にその意見を求めるため提示されかつその正当な代表者による意見書が付された上で届けられたものともいえない。このような場合には、就業規則変更の効力は、前示のように、原則として従業員一般に対する周知の手続をとらないままでその効力が生ずるものではないと解すべきである。XやBは、退職前に退職給与規程を取り寄せてはいるが、単に同人らが退職前に新規程の存在と内容を知ったとしても、これをもって新規程の効力が同人らに及ぶものではない。
 5 それのみならず、新規定による退職金不支給の定めは、既得権である退職予定者の退職金請求権を奪うものとして、その効力がない。その理由は次のとおりである。すなわち、使用者が就業規則によって労働条件を一方的に変更することは原則として許されない。ただし、その就業規則の変更が法定の手続を経ており、かつその内容が合理的な場合に限り、個々の労働者の同意がなくてもこれを適用できる。そして、本件においては、前認定の各事実及び弁論の全趣旨を総合すると、使用者であるA会社は、既に退職願を出しているXらに対し、報復的な意図の下に、密かに右懲戒解雇による退職金不支給規定を急遽新設する就業規則の変更を行い退職金の支給義務を免れようとしたものであると認められる。そうすると、これがXらの本件退職に関して内容的に合理的な就業規則の変更にあたるとは到底いえない。したがって、本件新規定はXらとの関係でその効力がない。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-競業避止義務〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
 8 忠実義務、競業避止義務違反
 (一) Cについて
 CはA会社の取締役であったから、商法二五四条三項により忠実義務を、同法二六四条一項により競業避止義務を負担していたものである。Cは、平成二年六月二七日取締役を退任しているが、それまでの間にも、D会社の設立の準備に積極的に関与したもので、同人が、競業避止義務の趣旨に反し、善良な管理者としての義務ないし忠実義務に違反したことは既記のとおりである。なお、A会社は、この外、Cが早くから新会社の設立を計画し、その意図のもとにネットワークを設立したと主張するが、ネットワークの設立の経過は、前示のとおりであって、A会社の右主張は採用できない。
 (二) Xについて
 当裁判所も、前示引用の原判決説示のとおり、XがD会社を設立させ、その結果、A会社の業務を混乱させたのは同人の幹部職員としての地位に照らし雇用契約上の誠実義務に反する違法行為であると判断する。〔中略〕
 前認定の事実、弁論の全趣旨に照らすと、C、Xの違法行為により、A会社の社会的、経済的信用が減少したことが認められる。
 そして、このような場合、損害が生じたことは認められるが、損害の性質上その額を立証することが極めて困難である。それ故、当裁判所は弁論の全趣旨及び本件全証拠調べの結果とこれにより認定できる前認定の各事実に基づき、金四〇〇万円をもって相当な損害賠償額であると認定する(民訴法二四八条)。
 (三) したがって、C、Xは連帯してA会社に対し、右損害賠償金四〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成四年五月一三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。