全 情 報

ID番号 07139
事件名 損害賠償等請求事件
いわゆる事件名 全国商工会連合会事件
争点
事案概要  退職勧奨は満四〇歳以上の全職員を対象にしたもので、有夫の女性だけを対象にしたものではなく不法行為には当たらないとされた事例。
 昇給・昇格の延伸につき、原告の勤務成績を理由とするもので不法行為は成立しないとされた事例。
 原告がうけた配転は業務上の必要に応じてなされたものであり、不法行為には当たらないとされた事例。
 改正前の給与規則に基づく退職金計算の請求につき、旧規定によるとの合意があるとして却けられた事例。
参照法条 民法709条
民法710条
労働基準法2章
労働基準法89条1項3号
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
労働契約(民事) / 人事権 / 昇給・昇格
配転・出向・転籍・派遣 / 配転・出向・転籍・派遣と争訟
賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 二会社との雇用契約と賃金請求権
退職 / 退職勧奨
裁判年月日 1998年6月2日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 20282 
平成9年 (ワ) 14202 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 労働判例746号22頁/労経速報1676号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
〔退職-退職勧奨〕
 原告は、職業安定所の紹介で採用され、派閥に属せず、有夫の女性であることから人員整理のターゲットとされ、昭和六〇年六月から平成五年三月まで歴代の役員等から執拗な退職勧奨を受けた旨主張する。しかし、右に認定したとおり、被告は、事業等の合理化・簡素化計画の一環として、原則として年齢四〇歳以上の全職員を対象に退職の意向等を確認したというのであり、有夫の女性であることなどを理由に原告を特定して退職を勧奨したとは認められないし、また、その説得の手段と方法が社会通念に反し、違法性を帯びるほど執拗なものであったと認めるに足りる証拠はない。
 したがって、被告の原告に対する退職勧奨自体が不法行為を構成するかのような原告の主張は採用できない。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
〔労働契約-人事権-昇給・昇格〕
 右に認定した事実によれば、昇格については、現に受けている級を受けるに至ったときから満四年を良好な成績で勤務したという要件を充足する必要があるのはもとより、給与規程の上で職位との対応が定められていることからして、上位の級に昇格するためには、所定の職位(役職)に就くことが前提になっているものと解すべきであり、一級から七級までと幅広い格付けがされている一般職員についても、これに準じて上位の級に相応しい職務能力が備わっていることが要求されるといわざるを得ない。ところで、原告は、被告による不当な差別がなければ、平成元年度において六級になっていたはずであると主張するが、その昇格の根拠について具体的な主張立証はないし、被告における右の昇格制度に照らして、被告が原告を五級以上の級に昇格させなかったことを違法と評することはできない。
 次いで、昇給については、平成元年四月までは原告も毎年一号俸ずつ昇給していたというのであり、平成二年四月以降満五八歳に達したことにより昇給停止となる平成五年一一月二六日までの間一度も昇給させなかったことは、原告にとって些か酷ではないかとの感は否定できない。しかし、給与規程によれば、職員が現に受けている号俸を受けるに至ったときから、一二か月以上を良好な成績で勤務したときは、その直近上位の号俸に昇給させることができるとされており、良好な勤務成績を要件にしているところ、原告の勤務状況は前記のとおりであって、決して芳しいものとはいえないこと、原告は、被告から指摘された四点について被告の常務理事あてに顛末書を提出し、その中で少なくとも平成二年四月一日から向こう一年間の昇給停止を承諾したと認められることなどの事情を併せ考慮すれば、被告において原告が良好な成績で勤務したとは認められないと判断したことは、昇給の決定に関して被告の有する裁量権の範囲を逸脱したり、濫用したとまではいうことができない。したがって、被告が平成二年四月以降定年退職するまで原告を昇給させなかったことについて、当、不当の問題が生じるのは格別、違法とまで評することはできない。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
〔配転・出向・転籍・派遣-配転・出向・転籍・派遣と争訟〕
 三 配転差別その他の差別について
 原告は、被告からの退職勧奨を断ったときから、不合理な配転を繰り返し受け、各職場において数々のいじめ、嫌がらせを受けた旨主張する。
 しかし、昭和六一年以降の原告の配置転換について、その必要性がなかったとは認められないし、これにより原告が通常甘受すべき程度を超えた不利益を被ったと認めるに足りる証拠もない。もっとも、原告が配置された各職場において、必ずしも原告自身が満足すべき内容の職務を与えられたとはいえず、職場の上司や同僚等との人間関係もうまくいかなかったことが窺われるけれども、これも原告の長年にわたる芳しくない勤務態度、とりわけ協調性の欠如に起因するところ大といわざるを得ず、これをもって、不法行為を構成するほど違法性を帯びた職場のいじめや嫌がらせとまではいうことができない。〔中略〕
〔賃金-賃金請求権の発生-二会社との雇用契約と賃金請求権〕
 先に判示したとおり、原告が退職時に六級二〇号に格付けされるべきであるとの前提自体認められないし、平成五年四月以降実施された給与規程の改正については、退職手当の額の算定方式の改定も含めて、原告は他の職員とともに予めこれを承諾したのであるから、今更改正前の給与規程の適用を主張するのは許されない。そうすると、原告の退職時の俸給月額(四級一七号)三三万八一〇〇円に改正後の給与規程による勤続年数に応じた支給率五一・八一を乗じて得た一七五一万六九六一円を退職金として支給した被告の措置に違法はない。