ID番号 | : | 07158 |
事件名 | : | 賃金仮払仮処分申立事件 |
いわゆる事件名 | : | アーク証券事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 経営悪化を理由とする賃金引下げにつき、現行就業規則にはその権限を認める規定はなく、黙示の合意、労使慣行および入社時の合意もなかったとされた事例。 変動賃金別(能力評価性)を導入する就業規則の改正につき、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものでなければならないとして、本件改正についてはその合理性がないとされた事例。 |
参照法条 | : | 法例2条 労働基準法2章 労働基準法89条1項 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働慣行・労使慣行 労働契約(民事) / 人事権 / 降格 就業規則(民事) / 就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与 |
裁判年月日 | : | 1998年7月17日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成9年 (ヨ) 21244 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下 |
出典 | : | 労働判例749号49頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 三柴丈典・民商法雑誌121巻1号123~134頁1999年10月 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働慣行〕 〔労働契約-人事権-降格〕 旧就業規則の下における債務者の賃金制度は、昇格・昇級が年功的ではないとしても、さらに、降格や減給までを予定したものであるということはできない。 したがって、旧就業規則は、本件変動賃金制(能力評価制)を定めたものではなく、これにより降格や減給を根拠付けることはできない。〔中略〕 債権者らの減給は、別紙給与変動表のとおり、平成四年四月から平成五年五月にかけて、債権者Aが約一〇万円、債権者Bが約五万円とすでに大幅な減額となっていること、そもそも労働条件の中で最も重要な賃金を減額するについて、異議を申し立てないという程度で承諾があったとみるのは困難であること、さらに、平成四年五月以降の減給が組合結成のきっかけとなっていること(〈証拠略〉)、その後の本案訴訟、第一次仮処分において債権者らは、平成四年五月以降の差額賃金を求めて争っていること(当事者間に争いがない。)などからすれば、黙示の承諾があったということはできない。 (3) 労使慣行 すでに認定したとおり、債務者においては、平成四年四月まで成績不振を理由とする降格・減給処分は行われたことは全くといってよいほどなかったのであり、そのことからすると、降格・減給を含めた意味での、前年度実績により成果に応じて給与が変更されるといった労使慣行等を認めることはできず、債務者の主張は理由がない。〔中略〕 右の事実や、債務者が債権者らの過去の実績を見込んでその入社を望んでいたのであれば、債権者らが入社を躊躇するような不利な条件について十分な説明をしたというのも通常考えにくいこと、さらに前記認定の組合結成の経緯、その後の訴訟等の経過に照らせば、(証拠略)の減給の可能性を説明したとする部分は信用できず、他に債務者の主張を認めるに足りる証拠もないので、合意があったとする債務者の主張は採用できない。 〔就業規則-就業規則の法的性質〕 〔就業規則-就業規則の一方的不利益変更-賃金・賞与〕 新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建て前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されないものというべきである。そして、右にいう当該規則条項が合理的なものであるとは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお、当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認できるだけの合理性を有するものであることをいうと解される。 そこで、就業規則の変更が労働者に不利益な労働条件の変更に当たるかどうかであるが、すでに認定したとおり、旧就業規則においては降格・減給の可能性は予定されていなかったというべきであるが、給与規定八条は、降格・減給をも基礎付けるものである。そうだとすれば、右規定の新設は債権者らにとって賃金に関する不利益な就業規則の変更にあたるのは明らかであるから、右規定を債権者らに適用するためには、右規定がその不利益を債権者らに受忍させるに足りる高度の必要性に基づいた合理的な内容のものといえなければならない。 しかし、債務者において、右規定の新設について、少なくともその高度の必要性につき主張及び疎明がない。 そうすると、給与規定八条は、平成六年四月以降の降格・減給について根拠とならないというべきである。 |