全 情 報

ID番号 07167
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 大和交通事件
争点
事案概要  ストライキ中にタクシーの出庫を阻却する意図でのピケッティングあるいはタクシーパレードは、争議行為としての正当性の範囲を逸脱しているが企業秩序違反の程度は重大なものとは評価できず、右争議行為を理由とする懲戒解雇は処分の相当性を欠き無効とされた事例。
参照法条 民法1条3項
労働基準法89条1項9号
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 違法争議行為・組合活動
解雇(民事) / 解雇権の濫用
裁判年月日 1998年8月26日
裁判所名 奈良地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 602 
裁判結果 一部認容、一部却下(控訴)
出典 タイムズ991号169頁/労働判例750号36頁/労経速報1689号3頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-違法争議行為・組合活動〕
〔解雇-解雇権の濫用〕
 (一) ストの正当性について
 本件ストやこれに付随する争議行為の手段や態様の正当性については、その動機・目的、具体的態様、周囲の客観的情況その他諸般の事情に照らして法秩序全体の見地から許容されるべきものであるか否かにより判断されるべきである。〔中略〕
 前記認定によれば、A労組は、タクシーの出庫を阻止する意図で、被告勤務のタクシー運転手が出庫しようとするのに対し、その前方に佇立したりしてタクシーの出庫を妨げたことが明らかである。そして、ピケの相手方は、スト破りをしようとするA労組の組合員ではなく、スト中といえども操業又は就業の自由がある使用者又は非組合員である(この点は、労働協約違反でもある)ことを考えると、その手段において正当性を逸脱した点があることを否定するのは困難である。原告は、出庫しようとするタクシーの前に立つ者と、側方で運転手を説得する者とに役割分担するという方針でピケを行った旨供述する(人証略)が、本訴で証拠として提出されたビデオ、写真等をみる限り、原告の供述に沿うような形での説得が主なピケの態様であったとは必ずしも認め難い。もっとも、被告が証拠を保全することに意を用いていたことからして、右のビデオ、写真などで認められるほかに悪質な行為があったとは認められないし、もとより暴行や傷害等の行為があったことを認めるべき証拠はない。
 しかし、その他の点においては、ストは四月八日、同月九日、同月一五日の三日間で、延べ約一九時間に及ぶものであったが、団体交渉も奏功せず、被告の対応もストを回避させるようなものではなかったから、この点を重視することはできない。また、被告において、ストに伴って不可避的に生ずる営業妨害に対処する措置を講じようとはしなかったことからすると、その操業継続の意思は希薄であったことが窺える。さらに、その客観的情況も早朝の出庫時からのストであり、乗客等との接触のない車庫内の出来事であることなどを考慮すると、本件ストについては、これに付随するピケにおいて、一部、説得の限度を超え、正当性を逸脱した点があることは否定できないが、その企業秩序違反の程度は重大なものと評価することはできない。
 (二) タクシーパレードの正当性について
 タクシー会社における労働組合の争議行為の方法として、営業用車両であるタクシーを会社の許可なく組合活動に使用することは、使用者の生産手段を何らの権限もなく占有するもので、この点は労働協約違反でもあるから、正当性があると直ちに認めることはできない。しかし、これが行われた時間やタクシー運賃が納金されていることからすると、その企業秩序違反の程度は軽微であると評するのを妨げない。
 2 Bに対する暴行、脅迫について前記に認定した限度の行為が認められる。
 3 本件懲戒解雇について
 被告の就業規則の七四条は、「従業員が、次の各号の1に該当するときは、懲戒解雇に処する。ただし、情状によっては出勤停止に止めることがある。」と規定して、情状により軽減して懲戒処分を課すことを認めている。そして、懲戒解雇処分は労働者を企業外に放逐する重大な処分であることからすると、懲戒解雇しなければならない程度の重大な企業秩序に反する行為がある場合に限って、懲戒解雇処分の相当性を肯定することができ、これを欠く場合には、懲戒解雇処分は無効になるものと解するのが相当である。
 ところで、本件ストを行った主体はA労組であるが、原告はA労組の執行委員長として、本件ピケやタクシーパレードにつき組合員を指導したという点でその責任を肯定でき、懲戒処分の対象となりうるものと解される。
 これを本件についてみると、原告の所為は、形式的には就業規則七四条六号(故意または重大な過失によって会社に損害を与えたとき)、又は同条一三号(その他、前各号に準ずる行為があったとき)、七四条一号、二二条八号(就業時間中の無許可組合活動の禁止)、同条一七号(許可なく、職務以外の目的で会社の車両等を私用し、又は社外に持ち出すことの禁止)の各懲戒解雇事由に一応該当するものではあるけれども、すでに説示したとおり、企業秩序違反の程度は重大なものと評価することはできないか軽微なものであって、これらを総合しても出勤停止はともかく、懲戒解雇しなければならない程度の重大性は認められず、本件懲戒解雇は解雇処分の相当性を欠き、無効であるというべきである。