ID番号 | : | 07170 |
事件名 | : | 従業員地位確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 大阪労働衛生センター第一病院事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 週三日勤務の医局員に対し、週四日勤務の常勤従業員になるか、あるいはパートタイマーの労働条件に応じるか、の選択を求めたケースにつき、わが国では変更解約告示という独立の類型を設けることは適当ではなく、解雇を必要とする経営上の必要性は何ら認められず、本件解雇の意思表示は解雇権の濫用に当たり無効とされた事例。 将来における退職金請求権の確認の訴えにつき、退職金請求権は労働者が退職してはじめて発生するものであり、即時確定の利益を欠くから不適法であるとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 退職金の法的性質 解雇(民事) / 解雇事由 / 企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更 解雇(民事) / 解雇権の濫用 解雇(民事) / 変更解約告知・労働条件の変更 |
裁判年月日 | : | 1998年8月31日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成8年 (ワ) 7186 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却、一部却下(控訴) |
出典 | : | 労働判例751号38頁/労経速報1695号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 奥野寿・ジュリスト1167号131~133頁1999年11月15日/山川隆一・平成11年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1036〕366~367頁2000年9月 |
判決理由 | : | 〔賃金-退職金-退職金の法的性質〕 一 退職金請求権等の確認の利益 原告は、その労働条件として、退職金及び退職年金が被告の常勤従業員と同じ扱いであること、すなわち、その支給基準の確認を求めるが、これらは、原告が退職してはじめて具体的に発生するもので、在職中はその権利は何ら具体化しておらず、また、その権利の実現に不安があるとしても、具体的権利が発生した時点で給付訴訟を提起すれば足りるのであって、その支給基準をあらかじめ確認しておくべき利益は乏しいから、即時確定の利益を欠くことは明らかである。したがって、本件訴えのうち、退職金等の支給基準の確認を求める部分は不適法である。〔中略〕 〔解雇-解雇事由-企業解散・事業の一部廃止・会社制度の変更〕 〔解雇-解雇権の濫用〕 〔解雇-変更解約告知・労働条件の変更〕 被告は、原告が被告の提示した新たな労働条件を拒絶し、従前どおりの勤務形態及び処遇に固執したため、やむなく本件解雇に至った旨主張し、右は、いわゆる変更解約告知として有効になされたものである旨主張するものである。 (一) ところで、講学上いわゆる変更解約告知といわれるものは、その実質は、新たな労働条件による再雇用の申出をともなった雇用契約解約の意思表示であり、労働条件変更のために行われる解雇であるが、労働条件変更については、就業規則の変更によってされるべきものであり、そのような方式が定着しているといってよい。これとは別に、変更解約告知なるものを認めるとすれば、使用者は新たな労働条件変更の手段を得ることになるが、一方、労働者は、新しい労働条件に応じない限り、解雇を余儀なくされ、厳しい選択を迫られることになるのであって、しかも、再雇用の申出が伴うということで解雇の要件が緩やかに判断されることになれば、解雇という手段に相当性を必要とするとしても、労働者は非常に不利な立場に置かれることになる。してみれば、ドイツ法と異なって明文のない我国においては、労働条件の変更ないし解雇に変更解約告知という独立の類型を設けることは相当でないというべきである。そして、本件解雇の意思表示が使用者の経済的必要性を主とするものである以上、その実質は整理解雇にほかならないのであるから、整理解雇と同様の厳格な要件が必要であると解される。 (二) そこで、以下、検討するに、被告は、本件解雇当時、被告の経営は極めて苦しい状況にあり、人件費の負担の大きいことが経営悪化の重要な要因であり、その中で優遇を受けている原告の扱いを変更する必要が生じた旨主張し、(証拠・人証略)並びに弁論の全趣旨によれば、被告における病院経営は、平成元年、平成二年とその営業損益にいわゆる赤字を計上し、平成三年以降もその赤字は増大し、平成四年三月には二億五〇〇〇万円の赤字を計上するなど、極めて苦しい状況にあったこと、その経営悪化の直接の原因は入院患者が激減したことにあったが、それとともに、患者数に比して従業員の数が多く、人件費の負担が大きいことも経営悪化の重要な要因であったことを認めることができ、これらの事実は被告の右主張に沿うものである。しかしながら、右各証拠によれば、平成三年九月に、Aが院長に就任し(右就任は当事者間に争いがない。)、種々の改善策を実施して病院の建て直しに腐心したこと、そして、右改善策により、平成四年三月期を底に被告の再建策は軌道に乗り、その経営収支は相当程度改善されていたことを認めることができる。そして、原告本人尋問の結果によれば、本件解雇当時の原告の基本給は月額一八万円台であって、その職種に照らせば、勤務日数が限定されていることを考慮しても、さほど高額とはいえないものであり、原告のように勤務形態が週三日に限定された従業員は臨時雇用の従業員以外になかったことでもあり、被告の経営状態が原告の雇用条件を変更しなければならないような状況にあったとは認められないところである。 また、被告は、原告が常勤従業員に比して優遇を受けているのでこれを是正する必要があった旨主張するが、勤務形態が週三日に限定されている点はこれを優遇されているといっていいかもしれないが、前述のとおり、その賃金が高額であるといったこともないし、他の従業員の原告に対する不満によって被告の業務が阻害されているといった事実も認められないところである。 以上によれば、原告を解雇しなければならないような経営上の必要性は何ら認められないから、それにもかかわらず、労働条件の変更に応じないことのみを理由に原告を解雇することは、合理的な理由を欠くものであり、社会通念上相当なものとしてこれを是認することはできない。したがって、被告による本件解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効である。 |