ID番号 | : | 07183 |
事件名 | : | 賃金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 第一生命保険相互会社事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 募集手当は概算払いの実質を有し、募集手当の額が実際の賃金計算額よりマイナスとなったときは、会社は営業職員に対し、不当利得返還請求権を取得するとされた事例。 使用者の不当利得返還請求権と労働者の給与債権との調整的相殺は、相殺の時期、相殺の額等より、労働基準法二四条一項に違反しないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 労働基準法24条1項 民法505条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権と考課査定・昇給昇格・降格・賃金の減額 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 過払賃金の調整 |
裁判年月日 | : | 1998年9月25日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成8年 (ワ) 24340 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例752号26頁/労経速報1690号26頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-賃金請求権と考課査定・昇給昇格・賃金の減額〕 募集手当の引戻しについては、営業員給与規程(営業員〔I〕)の本文では規定されていないものの、営業員給与規程付則一条を受けている「営業員給与規程細則(営業員〔I〕)」が前記のとおり規定しているから、募集手当は、給与規程によって、効率成績の引戻しによって減額されることがある手当であり、効率成績の引戻し又はその不発生の確定により初めて具体的な賃金額が確定するものであることが規定されているということができる。 したがって、効率成績の引戻しによって募集手当が減額されたとしても、賃金の控除には当たらず、労働基準法二四条一項には違反しない。 〔賃金-賃金の支払い原則-過払賃金の調整〕 募集手当は、給与規程に基づいて、効率成績の引戻しにより減額されることがある手当であり、効率成績の引戻し又はその不発生の確定により初めて具体的な賃金額が確定するものであることは、既に述べたとおりである。このような募集手当の性質に照らして考えると、募集手当の支払は概算払いの実質を有するのであり、募集手当の引戻しの結果、募集手当の額がマイナスとなったときは、被告は、営業職員に対し、概算払いの一部について不当利得返還請求権を取得することになるから、募集手当の引戻しは賃金から控除することによって行う右不当利得返還請求権との相殺とみることができる。 被告は、「営業員給与規程細則(営業員〔I〕)」(〈証拠略〉)の注記において、募集手当の引戻しにより募集手当がマイナスとなるときは「当月分給与で引戻しとなる」旨を規定し、原告に対し、平成六年一〇月分の給与、同年一二月分の給与及び平成七年三月分の給与につき減額を明記した各給与明細書(〈証拠略〉)を交付して、減額分を控除して支給しているから、これによって、募集手当の引戻しに伴い発生した不当利得返還請求権と右各月分の給与債権とを対当額で相殺したものと解するのが相当である。このような相殺は、過払いのあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてされるものであり、かつ、「営業員給与規程細則(営業員〔I〕)」の注記によりあらかじめ労働者にそのような事態があることを予告しているものであるから、これらの点を考えると、最高裁昭和四四年一二月一八日第一小法廷判決・民集二三巻一二号二四九五頁の判示しているところに照らし、労働基準法二四条一項の禁止するところではないものと解するのが相当である。 |