ID番号 | : | 07184 |
事件名 | : | 留学費用返還請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 新日本証券事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 本件留学規程の法的性質は就業規則と同一のものであり、少数の従業員にのみ知らされていたが、周知方法がとられたものと判断された事例。 留学終了後五年以内に自己都合により退職したときは原則として留学費用を全額返還させる旨の規定は、海外留学後の原告への勤務を確保することを目的とし、留学終了後五年以内に自己都合により退職する者に対する制裁の実質を有するから、労働基準法一六条に違反し、無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法16条 労働基準法89条 労働基準法106条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 賠償予定 就業規則(民事) / 就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立 就業規則(民事) / 就業規則の周知 |
裁判年月日 | : | 1998年9月25日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成9年 (ワ) 18746 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | 時報1664号145頁/労働判例746号7頁/労経速報1679号27頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 倉田聡・平成10年度重要判例解説〔ジュリスト臨時増刊1157〕210~211頁1999年6月/有田謙司・法律時報71巻9号101~104頁1999年8月 |
判決理由 | : | 〔就業規則-就業規則の法的性質〕 〔就業規則-就業規則の周知〕 本件留学規程は、原告が、従業員に対し、研修の一環として大学、大学院及び学術研究機関等(海外を含む。二条二項)に派遣を命じた場合につき必要な事項を定めるもので、労働契約関係における労働者の待遇にかかわる事項を定めるものということができるから、使用者が就業規則の形式により労働条件の一部を定めるものであり、法的性質は就業規則に当たるということができる。 2 本件留学規程の周知性について (一) 就業規則は、使用者が事業の運営上労働条件を統一的、画一的に決定する必要があるため、労働条件を定型的に定めるものであり、それが合理的な労働条件を定めているものである限り、使用者と労働者との間の労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っているものと解されている(最高大昭四三・一二・二五判、民集二二巻一三号三四五九頁、秋北バス事件)。就業規則のこのような法的規範性を肯定するには、使用者が労働条件を定型的に定める就業規則を作成し、その内容が合理的なものであることを要するほか、その就業規則が周知性を備えることを要するものと解するのが相当である。労働基準法一〇六条一項は、就業規則を常時各作業場の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によって労働者に周知させなければならないと規定し、使用者に就業規則の周知義務を課している。この規定は取締規定であり、これが遵守されていなければ就業規則が周知性を備えたといえないわけではないが、就業規則が周知性を備えるためには、その事業場の労働者の大半が就業規則の内容を知り、又は知ることのできる状態に置かれていることを要するものと解するのが相当である。 また、同一事業場において、労働基準法三条に反しない限り、一部の労働者についてのみ適用される就業規則を作成することは可能であるが、この場合についても、周知性を備えるには、該当する労働者の大半が就業規則の内容を知り、又は知ることのできる状態に置かれていることを要するものと解するのが相当である。〔中略〕 右認定によれば、原告は、留学に関心があり、又は留学の決定した少数の従業員に対してのみ、本件留学規程の内容を知らせるにとどめていたものであり、使用者側の内規としての意義を有するにとどまっていたものではないかとの疑問がないとはいえないが、適用を受けるべき労働者が一部の者にとどまることからすると、右に述べた方法でも本件留学規程が周知性を備えたことを肯定することができる。 〔労働契約-賠償予定〕 そうすると、原告は、海外留学を職場外研修の一つに位置付けており、留学の応募自体は従業員の自発的な意思にゆだねているものの、いったん留学が決定されれば、海外に留学派遣を命じ、専攻学科も原告の業務に関連のある学科を専攻するよう定め、留学期間中の待遇についても勤務している場合に準じて定めているのであるから、原告は、従業員に対し、業務命令として海外に留学派遣を命じるものであって、海外留学後の原告への勤務を確保するため、留学終了後五年以内に自己都合により退職したときは原則として留学に要した費用を全額返還させる旨の規定を本件留学規程において定めたものと解するのが相当である。留学した従業員は、留学により一定の資格、知識を取得し、これによって利益を受けることになるが、そのことによって本件留学規程に基づく留学の業務性を否定できるわけではなく、右判断を左右するに足りない。〔中略〕 右に基づいて考えると、本件留学規程のうち、留学終了後五年以内に自己都合により退職したときは原則として留学に要した費用を全額返還させる旨の規定は、海外留学後の原告への勤務を確保することを目的とし、留学終了後五年以内に自己都合により退職する者に対する制裁の実質を有するから、労働基準法一六条に違反し、無効であると解するのが相当である。 |