全 情 報

ID番号 07187
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 全日本空輸事件
争点
事案概要  会社の制度に基づく長期休暇取得の許可を受けて以降に、病気により休暇したことを理由とする右長期休暇を取り消されたケースにつき、右取消しは許されないとして会社に損害賠償の支払が命ぜられた事例。
 本件長期休暇制度は労働基準法三九条五項による計画年休制度の要件を満たしていないとされた事例。
参照法条 労働基準法39条5項
労働基準法89条1項1号
民法709条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 年休利用の自由
年休(民事) / 計画年休
裁判年月日 1998年9月30日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 10755 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例748号80頁/労経速報1685号27頁
審級関係
評釈論文 奥田香子・法律時報72巻9号102~105頁2000年8月/川田琢之・ジュリスト1194号138~141頁2001年2月15日
判決理由 〔年休-計画年休〕
 1 計画年休とは、使用者が事業場の過半数労働者を組織する労働組合又は過半数労働者を代表する者と、労働者に対して年次有給休暇を与える時季を書面による協定(以下「計画年休協定」という。)により定めれば、有給休暇の日数のうち五日を超える部分に限り、その定めに従ってこれを与えることができる制度であり(労働基準法三九条五項)、その場合には、その定めによる時季における労働日が年次有給休暇に確定し、その限りで労働者の時季指定権が当然に排除されることとなる。
 2 計画年休協定に右のような効力が認められる以上、右協定中には計画年休を与える時季及びその具体的日数を明確に規定しなければならない。
 これを本件においてみるに、被告が計画年休協定と主張する「確認事項」(〈証拠略〉)には、長期休暇の取得期間を通年とし、付与日数を連続一二日ないし一六日と定められてはいるものの、具体的な内容は希望者の多くが取得できるよう各部課別に基準を設定することとして、協定中に定められておらず、年次有給休暇を与える時季及びその具体的日数が明確にされているとはいえない。したがって、「確認事項」は計画年休協定の要件を満たしているとはいえないというべきである。
 また、被告が右確認事項を受けて作成したという本件運用要領も弁論の全趣旨からして、被告において一方的に作成し、実施しているものと認められ、確認事項を補充する計画年休協定の内容をなすものとはいい難い。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
〔年休-年休の自由利用(利用目的)-年休利用の自由〕
 被告は、本件運用要領の取得制限事由は、いったん承認した休暇の取消事由となるとし、(人証略)の供述では、例外を認めることが従業員間の公平を害し、それが被告の業務の正常な運営を妨げる旨述べる。しかし、長期休暇であろうとも労働者の有する年次有給休暇の時季指定権を計画年休制度によらないで、使用者が一方的に作成した運用要領によって一般的に制限することはできないというべきであるし、その規定する取得制限事由が具体的事案において適正なものであったとしても、いったん承認した休暇の時季を変更する基準としても適正なものとは当然にはいえない。右証人の述べる公平を害するという点についても、従業員が休暇承認後長期病気休暇をとること自体は多くあることではなく、いったん休暇を承認すれば、その従業員はそれを前提に休暇中の計画を立て、準備する場合も少なくないと考えられるから、休暇の時季を変更することは、当該従業員に予想外の不利益を課すこともあり得るし、病気の種類、内容によっては、これによる不利益を本人に負担させるのが酷な場合もあり、病気によって一か月程度休むことになったからといって、既に承認していた長期休暇を取り消されなければ公平に反するとまでは到底いえないところである。
 2 以上によれば、原告が本件長期休暇を取得したとしても、現実に航空機を就航させるように人員計画を策定することは可能であり、本件長期休暇について時季を変更しなければ被告の事業の正常な運営を妨げる事情があったとは認められないのであって、それにもかかわらず原告に対してされた本件長期休暇に対する時季変更権の行使は裁量の範囲を超える不合理なものであって違法である。
 したがって、被告による右時季変更権の行使は不法行為に該当する。
 三 争点3について
 1 キャンセル料及び一人割増参加料
 (一) (証拠略)、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告が、被告により本件長期休暇の承認が取り消された後である平成六年一二月三〇日、かねてよりAと予定していた旅行をキャンセルし、旅行業者に対し、キャンセル料二万九四〇〇円、A一人しか参加しなくなったことによる一人割増参加料三万五〇〇〇円を支払ったことが認められる。
 (二) 右のうち、旅行中止によってキャンセル料を負担することは、社会通念上通常生ずることであり、右による損害は通常損害であるというべきである。
 これに対し、一人割増参加料については、そもそも右旅行に参加したAが支払うべきものであり、本件全証拠をもってしても原告が右旅行業者に対して支払うべき義務があったとは認められないので、原告がこれを支払ったことについては被告による右不法行為との相当因果関係がないというべきである。