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ID番号 07188
事件名 雇用関係存続確認等請求事件
いわゆる事件名 与野市社会福祉協議会事件
争点
事案概要  被告が懲戒解雇事由とした点につき、たとえば原告の言動は概して非協調的なところはあるが、事案軽微であるとして、懲戒権濫用に当たり無効とされた事例。
 懲戒解雇から普通解雇への転換につき、安易な懲戒解雇を招来することにもなりかねないとして許されないとされた事例。
参照法条 民法1条3項
労働基準法89条1項9号
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒解雇の普通解雇への転換・関係
裁判年月日 1998年10月2日
裁判所名 浦和地
裁判形式 判決
事件番号 平成8年 (ワ) 764 
裁判結果 認容
出典 労経速報1682号13頁
審級関係
評釈論文 林豊・平成11年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1036〕362~364頁2000年9月
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕
 二 本件懲戒解雇の相当性
 本件において、被告は、本件規程第31条1号、2号、4号及び6号により原告を懲戒解雇したと主張するのであるが、そもそも使用者の懲戒権の行使は、当該具体的事情の下において、それが客観的に合理的理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には権利の濫用として無効となると解するのが相当であるところ、懲戒解雇がその他の処分と比し、労働者に与える不利益がきわめて大きいことを考えれば、その者を直ちに職場から排除するのもやむを得ないほどの事由が認められる場合でなければ、これを社会通念上相当として是認することはできないものというべきである(本件規程同条本文ただし書が、情状によっては譴責又は減給の処分にとどめることができると定めるのも、右趣旨を表すものといえる)。
 これを本件について見るに、前記認定事実にかかる原告の言動は、概して非協調的であり、本件懲戒解雇に至る経過において、十一、二名からなる被告事務局に不和を生ぜしめた状況が窺えるものの、他方、右認定事実の個々は、いずれも事案軽微であり、また、これらを総合しても、原告を直ちに職場から排除するのもやむを得ないほどの事由があったものとはいえないから、右認定事実が本件規程第31条1号、2号、4号及び6号のいずれかに該当するとしても、本件懲戒解雇を社会通念上相当として是認することはできない。
 もっとも、右認定事実のうち、地域福祉活動計画の策定会議については、原告の承諾の下に残業命令が出されていたにもかかわらず、原告はこれにたびたび従わず、明白な残業命令拒否の事実が認められること、Aサービスについては、B局長からの指示にもかかわらず、原告が利用会員等と直接の接触を続けた結果、会員らから不満の声があり、被告の事業の性質を考えれば、原告には好ましくない言動があったと認められることなどに関しては、一概に事案軽微として不問に付し難いものがあり、この点原告は十分戒められるべきであるが、他方、原告の右所為は、譴責ないし減給処分といったより軽度の懲戒処分によって是正が可能であると思われるところ、本件懲戒解雇に至るまで、原告に対し先行する懲戒処分が全くなかったこと(争いがない)などの状況に鑑みれば、なお右所為をもって、原告を直ちに職場から排除するのもやむを得ない事由に当たるとするのは、いささか酷であり、本件懲戒解雇を是認することはできないものというべきである。
 そうすると、本件懲戒解雇は、懲戒権の濫用として無効というべきである。
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒解雇の普通解雇への転換・関係〕
 三 普通解雇への転換
 次に、被告は、本件懲戒解雇が無効であるとしても、右処分は普通解雇として有効であると予備的に主張するが、制裁としての懲戒解雇と普通解雇とでは趣旨が異なり、かような無効行為の転換を認めれば、相手方の地位を著しく不安定なものとするばかりか、安易な懲戒解雇を招来することにもなりかねず、本件懲戒解雇をもって普通解雇の意思表示に転換することは許されないものと解する。