ID番号 | : | 07193 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分命令申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 大阪名鉄観光バス事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 組合脱退後、他組合に加入している者に対するユニオン・ショップ協定に基づく解雇が解雇権の濫用に当たり無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 民法1条3項 日本国憲法28条 労働組合法7条1号 |
体系項目 | : | 解雇(民事) / ユニオンショップ協定と解雇 |
裁判年月日 | : | 1998年11月30日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成10年 (ヨ) 3177 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下 |
出典 | : | 労働判例753号20頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-ユニオンショップ協定と解雇〕 一 債権者らは、ユニオン・ショップ協定締結組合(以下「締結組合」という。)であるA労組を脱退し、A労組から債務者に対して解雇要請がなされた当時、運輸一般に加入していた者であるが、ユニオン・ショップ協定のうち、締結組合以外の他の労働組合に加入した者について使用者の解雇義務を定める部分は民法第九〇条により無効であり、本件解雇は、本件ユニオン・ショップ協定に基づく解雇義務がないにもかかわらずされたものであるから、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当なものとして是認することはできず、他に解雇の合理性を裏付ける特段の事由がない限り、解雇権の濫用として無効であると解すべきである(最高裁判所平成元年一二月一四日及び同月二一日各判決参照)。 二 しかるに、債務者は、債権者らのA労組からの脱退及び運輸一般への加入(以下「本件脱退・加入」という。)に至る経緯並びに本件解雇前後の事情から、本件脱退・加入は、A労組の組合員である他の従業員の犠牲において、債権者らの個人的利益を追求する目的でされたものであり、労働組合選択の自由及び団結権を濫用するものであって、解雇の合理性を裏付ける特段の事由があるから、客観的に合理的な理由があるとして、また、債権者らはA労組及び同組合員の権利を侵害することを目的として脱退し、この目的を達成するために普遍的な反価値性のある行動をしたので、A労組及び同組合員が権利を守るために債権者らの解雇を求めたものであるから、債務者には解雇義務があり、本件解雇は、債権者らの労働組合選択の自由及び団結権を侵害するものではないとして、本件解雇は解雇権の濫用ではなく有効であると主張するので、以下これについて判断する。 債権者らがいかなる動機、目的でA労組を脱退し、運輸一般に加入したかは債権者らの労働組合選択の自由及び団結権の範囲内のことであり、使用者である債務者がその是非を判断すべきものではなく、仮に債権者らに債務者主張の動機、目的があったとしても、本件脱退・加入によって、当然に、A労組の組合員の労働条件が債権者らより不利になり、債権者らがA労組の組合員より有利な労働条件を獲得することができるわけではなく、仮に両組合の組合員の労働条件に相違が生じるとしても、どちらの組合に加入するかによって当然に生じるものではなく、債務者の経営方針、各組合の活動方針や労使交渉の結果によるものと解される。 次に、債権者らが普遍的な反価値性のある行動をしたとの点は、反価値性の評価基準が明確ではないうえ、債権者らの行動について、債務者がA労組に対する関係での反価値性を判断することは、債権者らの労働組合選択の自由及び団結権を侵害し、A労組の内部統制に属する事項に容喙することとなり(債権者らは脱退前にA労組から除名その他の処分を受けたとは認められない。)、引いては、債務者においてA労組の団結権と運輸一般の団結権に優劣をつけることにもなり、正当とはいえない。 さらに、一件記録及び審尋の全趣旨によれば、債務者は、運輸一般の活動方針や活動方法・形態がA労組とは相違があり、債権者らの運輸一般への加入によって、従来からの労使関係の維持が困難となってきたことを主張しているものと解されるが、債務者としては二組合併存下での新たな労使関係の形成に努めるべきであって、債権者らの労働組合選択の自由及び団結権を制限することによって、従来からの労使関係を維持しようとするのは正当ではないといわざるを得ない。また、債務者は債権者らが運輸一般を背景に違法又は不当な組合活動に及ぶ虞があることを危惧しているやに解されるが、組合活動の正当性の有無と本件ユニオン・ショップ協定に基づく解雇義務の有無を同列に論ずることはできず、右のような危惧があるからといって、直ちに債権者らの運輸一般への加入が労働組合選択の自由及び団結権の濫用であるとはいえないし、本件ユニオン・ショップ協定に基づく解雇義務が生じるともいえない。 以上の判示に、債権者Bは本件脱退・加入後一年余の間解雇されておらず、この間債務者と運輸一般との間に労使交渉・合意(〈証拠略〉)がされているところ、さらに債権者Cら五名が本件脱退・加入をした結果、本件解雇がされるに至ったことを併せ考慮すれば、債務者の主張は失当であって、本件解雇の合理性を裏付ける特段の事情があるとも、債務者に解雇義務があるともいえないから、本件解雇は解雇権の濫用として無効である。 |