ID番号 | : | 07195 |
事件名 | : | 労災保険給付不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 大牟田労働基準監督署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | じん肺罹患者の肺がん死につき、じん肺の原因となったシリカの発がん性と、じん肺と肺がんの一般的な因果関係が認められないとして、業務外とした労基署長の処分が適法とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働者災害補償保険法12条の8 労働者災害補償保険法36条 労働者災害補償保険法37条 じん肺法12条 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 職業性の疾病 |
裁判年月日 | : | 1998年12月16日 |
裁判所名 | : | 福岡地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成6年 (行ウ) 33 平成7年 (行ウ) 6 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例752号14頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-職業性の疾病〕 3 因果関係についての判断 (一) 訴訟上の因果関係の立証の程度については、一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく、経験則に照らして全証拠を総合検討し、特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性までの証明が必要であり、その判定は、通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを要し、かつ、それで足りると解するのが相当である。 そして、本件におけるじん肺と肺がんとの因果関係のように優れて医学的専門的分野の問題は、専門家の研究、疫学的知見、実験的知見、肺疾患に関する内科学、病理学等の現時点における到達点を十分に取り入れた上で、それら科学的認識と共通の基盤に立つことを前提に判断されるべきである。 前項認定の医学的見解の中には、じん肺と肺がんとの間の関連性が高いことを示すものがあるが、疫学的因果関係を肯定するものについては、分析疫学的考察の欠如、対象集団の偏り、関心度の偏り、交絡因子の影響の問題等いずれも合理的な疑いを入れることが可能な程度に、その手法への批判があり得るところである。また、メタアナリシスは、客観的記述的手法として価値のあるものと見ることができるが、重み付けを明確にし、文献検索におけるバイアス、発表バイアスに十分な留意をする必要があるとともに、正確な統計学的手法とは言い難い面があり、複雑な臨床の問題に決定的な単一の解決を与えるものとはいえない。 そして、じん肺又は肺疾患に関連する国際会議においても、じん肺と肺がんとの一般的因果関係を示唆する内容の討議はあるものの、これを正面から認める結論を出す状況にはなく(〈証拠略〉)、あるいは、じん肺と肺がんとの関係についての仮説を指摘する見解(〈証拠略〉)も未だ仮説の域を超えていない等、結局、現在の医学的知見では、じん肺と肺がんとの間の関連性が示唆されるにとどまり、直ちに高度の蓋然性をもって両者の間の一般的因果関係を認めるに至っていないというべきである。 また、本件においては、A、B両名共に相当期間の喫煙歴があるという事情があり、両名についての因果関係の判断に当たってはこのことも考慮に入れる必要がある。 以上によれば、じん肺と肺がんとの間の一般的な因果関係を認めることはできず、また、原告ら主張のメタアナリシスの結果の重要性を考慮しても、本件におけるA及びBのじん肺と肺がんとの間に通常人が疑いを差し挟まない程度の高度の蓋然性をもって因果関係があるとは判断できない。〔中略〕 六 結論 以上のとおり、被告らがA、Bの死亡は業務起因性がないとしてなした各不支給処分は適法であるから、原告らの請求は理由がなくいずれも棄却することとする。 |