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ID番号 07203
事件名 遺族年金不支給処分取消請求事件
いわゆる事件名 社会保険庁長官事件
争点
事案概要  貨物船の機関長(訴外A)が航行中の船内で倒れ、くも膜下出血により死亡した事故につき、訴外Aの妻が船員保険遺族年金の支給を申請したのに対して、「職務外」であると裁定されたため、その取消しを請求したところ、「職務上の事由」によるものとして不支給が取り消された事例。
参照法条 船員保険法50条
労働者災害補償保険法7条1項1号
体系項目 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性
裁判年月日 1997年9月25日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (行ウ) 239 
裁判結果 認容(控訴)
出典 時報1633号66頁/タイムズ995号161頁/労働判例726号85頁
審級関係
評釈論文 西村健一郎・判例評論477〔判例時報1649〕202~206頁1998年11月1日
判決理由 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕
 三 亡Aの死亡原因と職務上の事由
 1 既に説示したところによれば、本件発症は本件勤務に起因するものと推認されるところ、本件勤務当時の亡Aの健康状態は、昭和五五年一月、昭和五六年一二月、昭和六三年五月に血圧が高い数値を示しているが、昭和五六年一二月に高血圧の治療中であった外は、特に健康上の問題は指摘されておらず、船員手帳の健康証明書においては、全て合格と判定されており、検診を行った医師からも、何らの指示をされていなかったこと、亡Aの死亡当時、同人の船室に存在していた薬の包み中には、高血圧治療のための薬品が含まれていないことが認められ、右事実からすれば、亡Aが高血圧症を有していたとまでは認められず、日常業務を支障なく遂行できる健康状態にあったものと認められる。
 そうすると、本件勤務による業務の過重性の外に、亡Aのくも膜下出血の有力な原因は想定されないものというべきであるから、右くも膜下出血による亡Aの死亡は、業務によるものというべきである。
 2 この点につき、被告は、亡Aの死亡時の主治医である医師の意見書(甲第六号証)には、出血源は左中大脳動脈の動脈瘤破裂の可能性が最も高い旨の記載があり、中大脳動脈の瘤のほとんどはのう状動脈瘤であり、のう状動脈瘤のほとんどが先天性のものとされていることから(乙第二一号証、第三一号証)、本件事故の原因となった脳動脈瘤は先天的な要因により発症していたと主張する。しかしながら右医師の意見は、くも膜下出血が好発する部位についての抽象的、一般的な意見を述べたにすぎないから、これのみをもって亡Aが先天的にのう状動脈瘤を有していたと認めることはできないというべきである。
 3 以上によれば、亡Aの死亡は職務に因るものであるというべきであって、職務上の事由によるものではないとして、船員保険遺族年金の支給をしない旨を決定した被告の本件処分は違法であり取り消されるべきものというべきである。