全 情 報

ID番号 07210
事件名 未払賃金請求事件、雇用契約不存在確認請求反訴事件、損害賠償請求事件
いわゆる事件名 社会保険健康事業財団事件
争点
事案概要  少人数の職場において自己中心的な行動が目立ち、落書きや暴力行為を理由とする懲戒解雇につき、解雇権を濫用したものとも言えず有効とされた事例。
 組合員である原告を差別するために上司が就労を妨害するなどしたとして不法行為による損害賠償請求がなされたことにつき、不法行為には当たらないとして請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法89条9号
民法1条3項
民法709条
民法710条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 暴力・暴行・暴言
裁判年月日 1998年3月20日
裁判所名 奈良地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 530 
平成7年 (ワ) 270 
平成8年 (ワ) 563 
裁判結果 一部認容、一部棄却(270号、563号)、棄却(530号)
出典 労経速報1709号8頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-暴力・暴行・暴言〕
二 争点1について 右一に認定したところによれば、原告については、センターという少人数の職場のなかで徐々に自己中心的な行動が目立つようになり、平成五年六月ころからは指示事項を記した文書をもってその業務を適正に執行するよう指示されていたものであるが、センター開設後一年半を経過したのを機に行ったアンケート調査の結果を踏まえ、被告Yが被告財団本部とも相談の上、トレーニングジムの運営について総合的な見直しを行うという見地から、営業時間の拡大、講座制の導入、受講者のメニュー作りと指導方法の改善について検討するため、平成七年一月から当分の間トレーニングジムを休講する旨を発表したところ、原告は、これを自分に対するいわれのない個人攻撃であると邪推し、これ以後、センターの玄関前に自家用車を駐車した上でこれに装着した警報ブザーを日に何度か吹鳴させたり、センター内の壁面に落書きをしたり、A研究所から派遣されたBの講習活動を妨害する等の行為を繰り返した揚げ句、ついには同じくA研究所から派遣されていたCに対し、それほど重大な傷害を負わせるには至らなかったというものの、業務時間中に利用者の面前において、暴力行為に及んだことが認められる。そして、このような事実経過に照らせば、被告財団が就業規則に基づいて原告に対してした本件解雇は、誠にやむを得ないものといわざるを得ず、解雇権を濫用したものとしてこれを無効とすべき事実関係も見出し難い。〔中略〕
〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
 三 争点2について
 1 原告はまず、被告Yが根拠のない指示事項書を発行して嫌がらせを行ったとし、これが原告に対する不法行為を構成すると主張する。
 しかし、被告Yが指示事項書において指摘した不備事項の中には、トレーニングジムのドアや窓の施錠忘れといったように、多目的ホールの利用者が残っていることとは関係のない箇所の点検不備も含まれていたのであり、右指示はセンター長として当然のことを行ったものと認められるし、男女更衣室等他の箇所についても、原告において自己の点検時には利用者がこれを使用中であった等何らの弁明をしていなかったのであるから、それを原告の点検不備によるものと考えて指示事項書に加えていたとしても、右指示が社会的相当性を逸脱したものとして、原告に対する不法行為を構成するものとはいい難い。
 2 次に原告は、被告Yが労働組合員である原告を差別する意図の下に、同年一二月末から当分の間トレーニングジムを休講する旨通告し、アルバイトを不当に解雇して原告の負担を増加させ、さらには委託職員を採用して原告の就労を妨害する等の嫌がらせを行ったとし、これが原告に対する不法行為を構成すると主張する。
 しかし、右一連の措置は前示のとおり、センター開設後一年半を経過したのを機に行ったアンケート調査の結果を踏まえ、被告Yが被告財団本部とも相談の上、トレーニングジムの運営について総合的な見直しを行うという見地から、営業時間の拡大、講座制の導入、受講者のメニュー作りと指導方法の改善について検討するために行ったものであって、原告に対する不法行為を構成するものとはいい難い。
 3 さらに原告は、被告Yが、(一)原告に対してだけ出勤簿に頻繁に指示、連絡事項を記載した文書をはさみ込み、(二)平成六年六月一一日には原告を不当に遅刻扱いにし、(三)同年の盆休みあけにはひげを剃ることを強要する等の陰湿な嫌がらせを行ったとし、これらが原告に対する不法行為を構成すると主張する。
 しかしながら、右(一)は前示のような経緯で原告に対する必要な指示、連絡を行ったものと認められるし、右(二)についても実際に原告が遅刻していたことが認められ(証拠略)、右(三)についても時期からみて、そのころ原告が生やしていたひげが利用者の目には無精に映る状況にあったことが窺われるから、これらの指示も社会的相当性を逸脱したものとして、原告に対する不法行為を構成するものとはいい難い。
 4 原告はまた、D新聞に「休講に不満噴出」というタイトルで記事が掲載された翌日、被告Yが突然部下二名を従えてきて原告に因縁をつけてつるし上げたとし、これが原告に対する不法行為を構成するとも主張する。
 しかし、これについても被告Yは、前示のとおり、右一7に認定した経緯の下に原告が行った行為に対し、施設管理権者として合理的な指示を行ったものにすぎず、社会的相当性を逸脱したものとして原告に対する不法行為を構成するものとはいい難い。
 5 そうすると、被告Yに対し、不法行為に基づく損害賠償を求める原告のF事件請求は理由がない。