ID番号 | : | 07214 |
事件名 | : | 療養補償不支給処分取消請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 農協吉田給油所・丸亀労働基準監督署長事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 軽度の高脂血症の基礎疾病をもつ労働者が、香港への研修旅行により疲労が蓄積した状況において、ガソリン被浴により頭蓋内出血をしたケースにつき、これを業務外とした労基署長の処分を取り消した原審を維持し、業務上に当たるとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法75条2項 労働基準法施行規則35条別表第1の2第1~8号 労働者災害補償保険法7条1項1号 労働者災害補償保険法12条の8 |
体系項目 | : | 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 業務起因性 労災補償・労災保険 / 業務上・外認定 / 災害性の疾病 |
裁判年月日 | : | 1998年7月17日 |
裁判所名 | : | 高松高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成9年 (行コ) 2 |
裁判結果 | : | 棄却(確定) |
出典 | : | 労働判例754号79頁 |
審級関係 | : | 一審/06894/高松地/平 9. 1.14/平成6年(行ウ)8号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-業務起因性〕 〔労災補償・労災保険-業務上・外認定-災害性の疾病〕 三1 前示補正して引用した原判決理由説示関係部分のとおり、被控訴人が被浴したガソリンの量は約一リットルと多量であり、しかも被控訴人は給油口をのぞき込んだ状態で、頭部、顔面を中心として全身にガソリンを浴びていて、そのうえかなりの量のガソリンを吸入しており、直後に診察した医師はガソリン中毒を疑うほどの状況であって、このような状況でガソリンを浴びることは給油所においても滅多に発生する事態でないと考えられること及びガソリンが目や鼻に入った場合は激しい痛みが発生することに照らせば、本件ガソリン被浴は、被控訴人に対し、相当に強い恐怖、驚がくといった極度の精神的及び肉体的負荷をもたらす突発的で異常な事故であったというべきである。そうすると、このような精神的及び肉体的負荷は、被控訴人の有していた前示一の素因又は疾病をその自然の経過を超えて急激に悪化させる要因となり得るものというべきである。この点につき、控訴人は、一過性の血圧上昇は、細小動脈における脳出血を起こす直接的な因子とはなり得ない旨主張する。しかし、(人証略)の意見書及び当法廷における証言や(人証略)の原審における証言は、一過性の血圧上昇であっても、それが何らかの形で作用することにより、脳内出血の何らかの原因となり得ることを否定する趣旨とまではいえない。むしろ、一過性の血圧上昇が何らかの方法で既存の脳血管障害に作用した結果、細小動脈に脳出血が起こりうる余地を肯定する趣旨と解することができる。また、精神的及び肉体的負荷が人体に及ぼす影響は血圧の変動にとどまるものではなく、他の何らかの形態において、細小動脈の脳出血の因子となる余地を否定することはできない。したがって、控訴人の右主張を採用することができない。 なお、被控訴人は、本件ガソリン被浴の僅か数分間後に本件疾病を発症しているのであるから、この点も、本件ガソリン被浴が被控訴人の細小動脈の脳出血に対する何らかの原因として作用したことの根拠となるものといえる。 2 原判決の右説示のとおり、業務上の香港への研修旅行、及び同旅行後の業務による疲労も、本件ガソリン被浴と相俟って被控訴人の有していた前示一の素因又は疾病をその自然の経過を超えて急激に悪化させる要因となり得るものというべきである。 他方、前示一、二の説示のとおり、被控訴人の有していた前示一の素因又は疾病が、本件疾病発症直前において、既に確たる発症因子がなくてもその自然の経過により血管が破綻する寸前にまで進行していたとみることはできない。 そうすると、被控訴人は、同人の有していた前示一の素因又は疾病が、業務上の香港への研修旅行、及び同旅行後の業務による疲労並びに業務上遭遇した本件ガソリン被浴の事故によって、その自然の経過を超えて急激に悪化したことによって発症したものとみるのが相当であり、その間に相当因果関係の存在を肯定することができる(最高裁判所平成九年四月二五日判決・判例時報一六〇八号一四八頁参照)。 |