全 情 報

ID番号 07215
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 JR西日本事件
争点
事案概要  管理職員が組合脱退懲慂行為を行ったことを理由とする、(1)会社、及び(2)管理職員に対する不法行為を理由とする損害賠償請求について、(1)については、組合員の一部が脱退するなどして組織の弱体化等の無形損害を生ぜしめたとして五〇万円の支払が命ぜられたが、(2)については、組織を弱体化させる行為とは言えないとして請求が棄却された事例。
参照法条 民法709条
民法710条
民法715条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
裁判年月日 1998年7月23日
裁判所名 広島地
裁判形式 判決
事件番号 平成5年 (ワ) 1745 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例750号53頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-企業秘密保持〕
 三 被告会社の不法行為責任について
 1 広島運転所の管理職員二名がその立場で原告組合員二名に対する脱退慫慂を行っていたことは先に認定したとおりであり、「アプローチ状況表」を広島運転所の管理職員が作成したものと認められる以上、その記載内容からみて少なくとも被告会社の広島運転所は、運転所として原告組合員に対する脱退慫慂を行っていたと認めざるを得ない。広島運転所の管理職員による右のような行為は、原告組合に対する関係においては民法上の不法行為に該当する。したがって、被告会社は民法七一五条に基づく不法行為責任を負うことになる。しかし、被告会社が広島運転所以外の事業所で原告組合員に対する脱退慫慂等の不当労働行為を行っていたことを認めるに足りる証拠はない。
 2 原告組合の被った無形損害の程度について検討する。
 先に述べたとおり、原告組合員が減少した原因は、西労組が行ってきた組織拡大のための活動や原告組合の運動方針に見切りをつけた原告組合員自らの判断があったと認められることからすると、広島運転所における原告組合員の減少のすべてをその管理職員による脱退慫慂の結果ということもできない反面、広島運転所の管理職員が「アプローチ状況表」を作成して運転所として脱退慫慂を行っていたことからすると、広島運転所の脱退者のうち、一定部分は広島運転所管理職員による脱退慫慂の結果であると認めるのが相当である。そして、原告組合は組合員数の減少による組織自体の弱体化、組織乱れ等による無形の損害を被ったものと認められる。以上の諸点を総合的に考慮し、原告組合が被った無形損害額を金五〇万円と認める。
 3 弁護士費用
 被告会社管理職員による不法行為と相当因果関係のある弁護士費用は金五万円を相当と認める。
 四 被告会社以外の被告らの不法行為責任
 前記のとおり、被告Y1はAに対し、原告組合所属のままでは管理職員への登用は困難であることを暗に告知し、原告組合からの脱退を勧めたものであり、被告Y2はBに対し、指導担当に就任することを勧めることによって暗に原告組合からの脱退を慫慂したものであって、右両被告の行為はいずれも原告組合に対する不法行為に当たると評価できる。しかしながら、Aは本訴において証言した後原告組合から脱退しているものの、右脱退は被告Y1の右行為から三年以上経過した平成八年一二月五日の第一三回口頭弁論期日における証人尋問の更に後になされたものであり、被告Y1の右行為が主因であるとは言い難いこと、Bは現在も原告組合の組合員であること、以上からすると、右両被告の行為はいずれも原告組合の組織を弱体化させる行為であったと評価することはできないから、右各行為と相当因果関係ある原告組合の無形損害を認定することはできない。
 また、その余の被告会社の職員である被告については、その個々人が、原告組合に対する不法行為と評価され得る行為を行ったことを認めるに足りる証拠はない。よって、原告組合の被告会社以外の被告に対する本訴請求は理由がない。