全 情 報

ID番号 07218
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 さえき事件
争点
事案概要  コンビニエンスストアーの従業員らが、代金を支払わずに商品を持ち帰ったことなどを理由とする損害賠償請求につき、客による万引きを防止する等の防犯義務を負担するほか、自らの店の商品を盗取するなどの不正行為をしないことはもとより、他の従業員の不正行為を発見したときは、雇用主にこれを申告すべき義務を負っているとして、民法七一九条二項に基づき損害賠償請求が認容された事例。
参照法条 民法719条2項
労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 労働者の損害賠償義務
裁判年月日 1998年9月11日
裁判所名 福岡地小倉支
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (ワ) 872 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例759号72頁/労経速報1722号3頁
審級関係
評釈論文 浅野高広・労働法律旬報1483号17~23頁2000年7月10日/中野育男・法律時報72巻5号108~111頁2000年5月
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-労働者の損害賠償義務〕
 四 被告らの不法行為・幇助行為の成否とその損害賠償責任の範囲について
 1 被告らは、別紙「従業員勤務年数一覧表」記載の各期間、原告の経営する本件店舗に店員として雇用されていた者であるが、一般に、本件店舗のような店で店員として勤務する従業員は、雇用契約上の具体的義務として、客による万引きを防止する等の防犯義務を負担するほか、信義則に基づくいわゆる誠実義務として、雇用主に経営上の損害を与えないよう配慮すべき義務、すなわち、自ら店の商品を盗取するなどの不正行為をしないことはもとより、他の従業員による不正行為を発見したときは、雇用主にこれを申告して被害の回復に努めるべき義務をも負担するものと解するのが相当である。そして、従業員自らが商品を盗取するなどの不正行為をした場合にはこれが不法行為を構成することは明らかであるが、更に、他の従業員による不正行為を発見しながらこれを雇用主に申告しないで被害の発生を放置した場合には、その不作為が前記内容の誠実義務に違反する債務不履行を構成するのみならず、その不作為によって他の従業員による不法行為(不正行為)を容易にしたものとして、不法行為に対する幇助が成立するものというべきである。
 この点、被告らは、学生アルバイトにすぎない被告らには、他の従業員による不正行為を雇用主に申告すべき義務はない旨主張するが、前記内容の誠実義務は、雇用契約関係にあれば信義則上当然に生じるべき義務であり、何人もこれを容易に履行することのできるものであるから、社会経験の乏しい学生アルバイトであるからといってその義務がないとすることはできない。〔中略〕
 各被告らは、それぞれ本件店舗で勤務を始めて遅くとも一か月が経過したころから、他の従業員が不正行為を行い、かつ、これが日常的に反復されている事実を認識するに至ったものと認められるから、右事実を認識しながら、その事実を雇用主の原告に申告しないで被害の発生を放置していたものとして、少なくとも、不作為による幇助が成立することは明らかというべきである。