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ID番号 07220
事件名 損害賠償請求控訴事件、附帯控訴事件
いわゆる事件名 千葉県(小学校教員)事件
争点
事案概要  小学校教員である原告が、退職願の撤回を校長及び教育委員会部長に意思表示したにもかかわらず、教育委員会に取次をしてもらえなかったことにより、精神的及び経済的に損害を被ったとして、(1)右両名、及び(2)千葉県を相手どって損害賠償を請求したケースにつき、原審が、(1)については棄却したが、(2)については認容をしていたところ、控訴審において、(2)についても否定された事例。
参照法条 国家賠償法3条1項
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償
退職 / 退職願 / 退職願いの撤回
裁判年月日 1998年9月24日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ネ) 395 
平成10年 (ネ) 2216 
裁判結果 一部認容、一部棄却(上告)
出典 労働判例755号51頁
審級関係 一審/07206/千葉地/平10. 1.13/平成8年(ワ)552号
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕
〔退職-退職願-退職願いの撤回〕
 三月二四日に一審原告はAに対して本件退職願撤回の意思表示をしたものとは認め難いといわなければならない。仮に、当時の一審原告の内心の意思が退職に消極的になっており、そのことを言外に示したつもりであったとしても、一審原告が退職願を書面で提出し、同月二三日、二四日の両日にわたる意思確認に際しても退職の意思を明らかにしていたものである以上、Aにおいて一審原告の内心の意思を忖度したり、あるいは推測や可能性に基づいて行動すべき義務があったものと解することはできず、同月二四日の退職願の撤回の意思表示がAに対してなされ、これをAが教育委員会に伝達しなかったことを前提とする一審原告の主張は採用することができない。
 さらに、同月二九日、一審原告がAに対し、本件退職願撤回の意思表示をしたことは争いがないが、同日は既に同月三一日付けの退職願承認の辞令が出ており、また一審原告は、自ら東葛飾出張所に退職願撤回を申し出るなど前記一の7認定の行動をしたものの、結局、右退職承認処分は撤回されることなく発令されたものであること及び(証拠略)に照らすと、仮に、右二九日の段階でAにおいて一審原告の退職願撤回の意思を市教委、東葛飾出張所を経由して教育委員会に上申したとしても、本件退職承認処分の発令を中止させることができたものとは認め難いといわざるを得ないから、Aが右二九日に一審原告の退職願撤回の申し出を教育委員会に伝達しなかったことと本件退職承認処分の発令との間に相当因果関係を肯定することはできない。また、Aが、同月二九日の突然ともいえる東葛飾出張所等への同行要請を既に予定されていた私的行事等の存在を理由に拒否したとしても、そのことが一審原告に対する違法な行為を構成するということもできない。
 以上によれば、一審原告のAの違法行為を理由とする一審被告に対する国家賠償請求は理由がない。〔中略〕
 平成五年三月二四日には、一審原告からBに対して明確な退職願撤回の意思表示はなされなかったものというほかないのであって、既に校長を経由して市教委に退職願が提出され、退職意思確認も二度にわたり済んでいる段階で、明確な退職願撤回の意思表示がない以上、Bにおいて一審原告の真意を忖度して行動すべき義務があるわけではないから、本件退職願をそのまま東葛飾出張所に取り次いだBの行為が一審原告に対する違法行為に該当するとは認め難いというべきである。
 そして、一審原告が同月二九日、Bに対し本件退職願撤回の意思表示をしたことは争いがないところであるが、前記1で検討したとおり、仮にその時点でBが退職願撤回の意思表示のあったことを東葛飾出張所に取り次いだとしても、本件退職承認処分の発令を阻止し得たものとは認め難いし、Bが一審原告の右同日の東葛飾出張所等への同行要請を多忙等を理由に拒否したとしても、そのことが一審原告に対する関係で違法行為を構成するものとも認めることはできない。
 なお、Bは一審被告の公立小学校の教員として勤務し、給与等は一審被告から支給を受けるいわゆる県費負担職員であったが、平成二年四月一日から平成六年三月三一日までは流山市事務吏員であり、流山市から給与等の支給を受ける流山市の職員であったものであるから、Bは国家賠償法三条の一審被告が費用を負担する公務員であると解することはできない。なお、平成五年三月当時、Bが市教委の学校教育部長であったことは、一審原告に明白であったものである。
 したがって、いずれの点からしても、Bの違法行為を理由とする一審被告に対する一審原告の国家賠償請求は理由がない。