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ID番号 07231
事件名 債務不存在確認請求事件(本訴)、退職一時金請求事件(反訴)
いわゆる事件名 日本私立学校振興・共済事業団事件
争点
事案概要  私立学校教職員共済組合から退職一時金を受給した者が、共済組合法の改正に伴い退職年金を受給する場合には、右一時金に利子を加えた金額を返還しなければならないとする規定につき、この規定は同一組合員期間についての重複支給の調整方法として定められたものであり、著しく不合理ともいえず、財産権を侵害するものでもないとして、返還請求が認容された事例。
参照法条 労働基準法89条3の2号
国家公務員共済組合法附則12条の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 共済制度と退職金請求権
賃金(民事) / 賃金の支払の確保等に関する法律
裁判年月日 1998年10月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 5750 
平成10年 (ワ) 3362 
裁判結果 本訴却下、反訴認容(控訴)
出典 労働判例755号24頁/労経速報1694号17頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔賃金-退職金-共済制度と退職金請求権〕
〔賃金-賃金の支払の確保等に関する法律〕
 本件返還規定の趣旨は、前記のとおりであって、原告の過去における適法・有効な財産の取得を事後的に無効とし、それを返還させるものではないと解するのが相当であり、そうだとすれば、その義務を課することが著しく不合理で立法権の裁量の範囲を逸脱していると認められる場合はともかく、そうでなければ財産権の侵害とはならないというべきである。そして、右義務は、既に述べたとおり、私立学校教職員共済組合における公平・適正な退職共済年金制度の実現という福祉目的のために定められたものであり、著しく不合理ということもできない。
 したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。
 (四) なお、原告は、最高裁判所昭和五三年七月一二日大法廷判決(民集三二巻五号九四六頁)を引用し、平成八年改正前の国家公務員等共済組合法附則一二条の一二は、単に期待権を侵害するものではなく、確定的に生じた権利である退職一時金たる財産権を侵害するものであることに照らして許されないと主張する。
 しかし、右大法廷判決の事案は、農地の旧所有者の売払いを求める権利が、買収時の低廉な対価相当額でその売払いを求めることができるという内容から、時価の七割相当額を支払わなければ売払いを求められないという内容に変更された場合についての事案であるところ、本件返還規定は、前記のとおり、退職一時金の支給を事後的に無効にして変更するものではなく、新たに義務を課するものであるから、本件は事案を異にするものである。
 (五) 原告は、利子の支払義務が生ずるのは、約定によりその支払を合意した場合か本来支払うべき債務が存在し、それを遅滞した場合などのみであるのに、本件返還規定が退職一時金の支給を受けた日の属する月の翌月から退職共済年金を受ける権利を有することになった日の属する月までの期間の利子に相当する額を加えて返還しなければならないと定めたのは財産権の侵害に当たると主張する。
 しかしながら、本件返還規定は、前記のとおり、過去の退職一時金の支給を事後的に無効にして、その返還義務が生じていることを前提とするものではなく、同一の組合員期間に関する重複支給の調整のため、受給した退職一時金の額にその予定運用益相当額を加えた金額を基準とすることとしたものであり、本件返還規定における「利子」の文言は、右調整金額の一部が退職一時金の予定運用益相当額であることを分かりやすく表現するために用いられたにすぎないものであると解するのが相当であり、そうであるとすると、原告の主張する元金と利子との一般的関係を前提とする非難は当たらない。
 そして、右利子の利率が年五・五パーセントの複利計算によるものとされていることについては、共済組合における財源の運用予定利率が五・五パーセントの複利であること(私立学校教職員共済組合法昭和六〇年改正前の私立学校教職員共済組合法二五条で準用される国家公務員等共済組合法昭和六〇年改正前の国家公務員等共済組合法八〇条一項一号ロ及び三項並びに私立学校教職員共済組合法施行令等の一部を改正する政令(昭和五四年一二月二八日政令第三一五号)により改正された私立学校共(ママ)済組合法施行令一〇条の八によれば、組合員であったものが退職年金、通算退職年金等の受給権を取得しなかった場合に、六〇歳に達したときに支給される脱退一時金には退職した日の属する月の翌月から六〇歳に達した日の属する月の前月までの期間に応ずる五・五パーセントの複利計算の利子に相当する金額が加算されるものとされていた。)に照らし、不合理なものではない。