ID番号 | : | 07233 |
事件名 | : | 損害賠償等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本硝子製品工業会事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 被告を退職した原告が、給料増額の通知を受けたにもかかわらず増額分が支払われていない上、退職に追い込まれたとして慰謝料を請求したのに対し、原告は被告との間で退職に関する和解契約を締結しており、精神的損害等の賠償請求の権利を喪失しているとして、右慰謝料請求が棄却された事例。 |
参照法条 | : | 民法695条 労働基準法2章 労働基準法89条3の2号 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 使用者に対する労災以外の損害賠償 |
裁判年月日 | : | 1998年10月30日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成8年 (ワ) 22598 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労経速報1699号12頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-使用者に対する労災以外の損害賠償〕 一般に、和解契約中に、本件確認書三項のような「原告と被告は、本確認書に定める事項以外、本件退職に関し相互に一切の債権債務がないことを確認する」旨の条項(いわゆる清算条項)を入れる場合には、当事者は、当該紛争に関連する債権が他にあったとしても、それは放棄する趣旨であると解される。また、「本件退職に関」する債権債務という場合には、退職自体から生じる債権債務に限らず、退職に至るまでの紛争の過程で発生した債権債務も含まれ、したがってそれも放棄する趣旨であるというのが当事者の通常の意思に合致すると解される(もちろん、退職と直接関係のない債権債務まで当然に放棄する趣旨であるとは解されない。未払賃金債権の存否については、前記一のとおり別個に検討した所以である。)。 3(一) この点につき原告は前記第二の三3(原告)のとおり主張し、原告本人はその主張に沿う供述をする。同人の陳述書(書証略)も同旨である。 (二) しかし、原告が本訴で損害として請求している精神的損害及び本来得られたであろう逸失利益というものが除外されるとするならば、原告が受領した解決金は何に対する対価なのかが原告の主張では不明である。 また、仮に原告の理解する解決金の中身と原告が本訴で請求している損害とを観念的に区別して考えることができるとしても、紛争当事者が退職に関連して支払われる解決金の額を算定するに際し、精神的損害や逸失利益を切り離して考えること、あるいは紛争当事者の間に入った者が、切り離して考えるよう当事者に勧めることは通常考え難い。 その他にも、前記1の事実経過、特に被告が給料の二か月分を提示したのに対し、原告が金額の上乗せを要求していること、原告が本件確認書作成後A職員に御礼を言いに行ったこと、またその際には被告に損害賠償等の請求をする旨の話をしていないこと、本件確認書作成から原告が民事調停の申立てをするまでに一年以上が経過していることは、解決金をとりあえず紛争の一部を解決するだけのものであるとは考えていなかったこと、和解契約が成立した時点では納得のいく結果を得られたと考えていたことを推測させ、したがって、原告の主張とは両立し難い事実であるところ、これらの事実についての本人尋問における原告の説明は説得的であるとは言い難い。 (三) 右に述べた諸点に照らすと、原告本人の供述及び同人の陳述書は信用できず、錯誤があったとの原告の主張は理由がない。 4 そうすると、本件確認書三項の意味するところについて、原告が通常と異なる理解をしていたとは認められないのであって、原告は、本件確認書に署名押印したことにより、給料の二・五か月分の解決金を受領することで退職に関連する紛争を一切解決する意思(仮に退職自体から生じる債権債務、退職に至るまでの紛争の過程で発生した債権債務が他にあったとしても、合意された解決金以外の部分については放棄する意思)を表示したと認められる。 5 したがって、原告は、本件確認書の作成(和解契約の成立)により、退職に至る過程で被った精神的損害等の賠償を請求する権利を喪失したというべきである。 |