ID番号 | : | 07236 |
事件名 | : | 退職金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 甲府商工会議所(株式会社カネコ)事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 被告である商工会議所が実施している特定退職金共済制度は、退職金の原資を保全するものではなく、退職金の支払を確保するためのものであり、退職給付金の請求権は直接退職者に帰属するとして、事業主の倒産により原告らに退職一時金が支払われなかった不利益は被告が負担すべきであるとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条3の2号 所得税法施行令73条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 共済制度と退職金請求権 |
裁判年月日 | : | 1998年11月4日 |
裁判所名 | : | 甲府地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成9年 (ワ) 60 |
裁判結果 | : | 認容(確定) |
出典 | : | 労働判例755号20頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-退職金-共済制度と退職金請求権〕 特定退職金共済制度は、退職金の原資を保全するためのものではなく、退職金の支払そのものを確保するためのものであり、退職一時金の請求権は直接に退職者に帰属し(ただ事業主を通して請求するものとされているにすぎない。)、その支給額は原則として掛金と加入期間とに応じて一律に決まるものであって、事業主の退職金規程の内容やこれに基づく支給額によっては左右されない(逆に、事業主において、退職一時金が支給された場合にこれを退職金規程に基づく支給額の内払とみなすことはできる。)と認めるのが相当である。 三 そこで、右のような特定退職金共済の性格を前提に、被告の主張(抗弁)について検討する。 1 退職一時金の支給について代理受領が認められるか否かはさておき、本件において、被告が原告らに対する退職一時金を株式会社Aに支払うこと(株式会社Aが退職一時金を代理受領すること)について原告らが明示的に承諾をしたと認めるに足りる証拠はない。退職一時金の受取を株式会社Aに委任する旨の原告ら名義の委任状が存在し、この点について(人証略)は、原告らは株式会社Aが被告から退職一時金を受領することを承知していたと証言するが、右証言は他の証拠に照らして採用することができず、他に右委任状が原告らの意思に基づいて作成されたと認めるに足りる証拠はない。 また、株式会社Aの退職金規程には退職金支給のために退職金共済契約を締結する等の定めはなく、大半の従業員らは株式会社Aが特定退職金共済を採用していることを知らなかったというのであるから、たとえ従前から被告が退職一時金を事業主である株式会社A経由で退職者に支払っていたとしても、このような支給方法について原告らが黙示的包括的な承諾を株式会社A及び被告に与えていたとみることもできず、他に原告らの承諾を認めるに足りる証拠はない。 被告は、従前は事業主経由で退職者に退職一時金を支給するのが通常であったし、それで問題もなかったと主張するが、このような事業主経由の支給方法は先に認定した特定退職金共済制度本来の姿にもとるといわざるを得ず、ただ従前は事業主経由で退職者に支給する方法が内包する問題が顕在化しなかったにすぎないから、株式会社Aに対する支払が従来から行われてきた方法であるからといって、被告の株式会社Aに対する支払をもって原告らに対する有効な弁済とみることはできない。 以上の点を実質的に考えてみても、本件は、被告が退職一時金を原告らに直接支給しないで事業主である株式会社Aに支払ったところ、株式会社Aが倒産してしまい、株式会社Aから原告らには退職一時金が支払われなかったというもので、いわば株式会社Aの倒産によって生じた不利益を原告らと被告のいずれが負担すべきかの問題ととらえることができるが、この不利益は、制度本来の姿にもとる支給方法をとっていた被告が負担すべきであり、何らの落ち度のない原告らにその負担を強いる理由は見いだせないといわざるを得ない。 したがって、原告ら請求の退職一時金は弁済済みであるとの被告の主張(前記第二の二1)は採用することができない。 |