ID番号 | : | 07237 |
事件名 | : | 雇用関係不存在確認請求事件(本訴)、地位確認等請求事件(反訴) |
いわゆる事件名 | : | 日本入試センター事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 予備校の東京本部から浜松校への配転につき、配転先における管理職増員のための合理性があり、労働組合結成の中心メンバーであることを理由とするものでもなく、転勤に伴い通常甘受すべき程度を著しく超える重大な不利益を与えるものでもなく権利濫用には当たらないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法1条3項 |
体系項目 | : | 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令の根拠 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の限界 配転・出向・転籍・派遣 / 配転命令権の濫用 |
裁判年月日 | : | 1998年11月6日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成5年 (ワ) 22578 平成6年 (ワ) 4246 |
裁判結果 | : | 却下(22578号)、棄却(4246号)(控訴) |
出典 | : | 労働判例756号50頁/労経速報1698号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令の根拠〕 しかして、被告は、このような業務を遂行することによって得難い経験を積んでいるのであって、このような経験は、被告が地方校で広報業務に取り組む際にも有益であり、被告は、規模は小さくなるとはいえ、新たな職務に企画力、実行力を活かして積極的に取り組んでいくことが可能であったはずである。被告が地方校ではそれまでの業務上の経験を活かすことができないということには、十分な根拠がないといわざるを得ない。また、被告に高校訪問の経験、生徒指導の経験、部下を指導してきた経験がなかったことも、それが、新たにそのような経験をすることの障害となるようなものではなく、被告は、むしろ、新たな経験を積むことによって一層能力の幅を広げることができたはずである。さらに、ダイレクトメールを推進するメインの高校名簿オンラインシステムを開発してきた被告のノウハウを短期間で引き継ぐことに困難が伴ったとしても、原告が、その不利益を考慮してもなお、経営上の必要から、被告を浜松校に配転させることを選択することは、経営、人事に関する原告の裁量の範囲内ということができる。 原告が、前記のように判断して被告を浜松校事務局課長に配転することを決定したことには合理性があり、被告の主張は理由がない。〔中略〕 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の限界〕 A予備校の経営者側幹部らがB本部における労働組合設立の動きを警戒し、情報収集に動いていたことがうかがわれ、被告に対する本件配転命令がCに対する出向命令とともに発令された点等、A予備校の経営者側に不当労働行為意思のあったことをうかがわせる点がないとはいえない。 しかしながら、A予備校グループにおいては平成五年五月期に人事異動が行われたのであり(〈証拠略〉によれば、同年五月一六日付けで転居を伴う配転、出向が二例あったことが認められる。)、同年三月の同期会、花見の会の際に、被告が労働組合を結成しようとする中心人物であるとしてB本部の上層部にマークされ、さらには、同年四月二〇日の一〇項目要求確定後に被告がB校の中で説得活動を開始したことから、同様のマークを受けることになったとすれば、他の者についても異動がある同年五月期に本件配転命令を発令する方が目立たないことになるから、当然そのように発令されたはずである。しかるに、被告については、同年五月期には異動の対象とならなかったことからすると、同年三月の同期会、花見の会の際に、被告が組合活動の中心人物であるとしてB本部の上層部にマークされ、あるいは同年四月二〇日の一〇項目要求確定後に被告がB校の中で説得活動を開始したことから同様のマークを受けることになったとは考えにくい。 そうすると、同年五月一三日に被告がBライブラリーのD常務から、E社のF専務が被告のことをマークしている、気を付けるようにと注意を促されたことがあったこと、同年六月二九日の「G」で被告ら参加者の間で組合設立の話が盛り上がったことがあったが、後日、原告人事課のH課長代理がその際の参集者について職員に尋ねたことがあったことのほかには、証拠上A予備校の経営者側幹部らの不当労働行為意思と本件配転命令との架橋となるべき事実は見出し難いが、これらだけでは本件配転命令が右不当労働行為意思に基づいて発せられたものであることを認めるに足りないといわざるを得ない。なお、同年六月二九日に「G」で気分が高揚して組合活動のことを話題にして盛り上がり、そのことがその場に居合わせた者から上層部に通報され、本件配転命令に至ったと言うのは、いささか出来すぎの話であるとの観があり、被告らが本件配転命令後振り返ってみて、あの時に不用意な発言でもあって何かをつかまれたのではないかと推測したという限度では理解できるものの、その推測を証拠により結実させるには至っていないといわざるを得ず、そのような事実を認定すること自体できないというべきである。 (三) 前記のとおり本件配転命令についての配転の必要性が認められるところ、前記各事実、証拠だけでは、本件配転命令につきA予備校の経営者側幹部らに不当労働行為意思があったことを認めるに足りないから、本件配転命令が不当労働行為に当たるということはできない。〔中略〕 〔配転・出向・転籍・派遣-配転命令権の濫用〕 (2) 証拠(〈証拠略〉、被告(反訴原告)本人)によれば、本件配転命令当時、被告は、妻I及び三人の子並びに被告の両親と現住所の一軒家に同居していたこと、三人の子は、長男Jが小学校三年生、長女Kが小学校一年生及び生後二箇月の次女Lであり、子供たちを育てるには被告と妻が力を合わせることが必要であったこと、七〇歳になる父と六三歳の母は、地域の中でボランティア活動や政治活動に従事することを生きがいとするようになり、忙しい毎日を送っていたこと、そのため、家事や育児は妻Iが主に責任を負っており、被告は、帰宅すると、子供の勉強を見たり、家事を手伝ったりしていたこと、被告は、一軒家を増築し、ローンの支払を負担しなければならなかったこと、当時の被告の手取り賃金は、月額二八万六九〇〇円であるが、毎月のローン返済額が八万円であり、被告の給与だけでは家計に余裕はなかったこと、一家そろっての浜松転居は、高齢な両親の地域での活動の楽しみを奪うことになり、生活環境を激変させるもので好ましくなかったし、原告が用意した三DKの社宅でも、被告一家全員が移り住むには手狭であったこと、他方、被告の両親が東京に残る形で被告が妻子とともに浜松に転居することは、両親に何かあったときに被告らに大きな負担となることが懸念され、二重生活による支出の増加も見込まれたこと、被告の単身赴任も、右同様二重生活による支出の増加をもたらし、被告の妻の負担を増加させるものであったこと、以上の事実が認められる。 しかしながら、他方、原告は、浜松に三DKの社宅を用意し、その賃料全額を賄う住宅手当の支払を申し出ていた上、課長手当月額三万円を支給することとして被告の経済的負担に対する配慮をしていたのであるから、これらの事実をも併せて考えると、本件配転命令が被告に与える家庭生活上の不利益は、転勤に伴い通常甘受すべき程度のものというべきである。 (3) 被告は、本件配転命令が被告の労働組合活動を不可能にするものであった旨主張するが、本件配転命令が被告に対し、転勤に伴い通常甘受すべき程度を超える重大な不利益を与えるものであったことについては、これを認めるに足りる証拠がない。 (4) したがって、本件配転命令は、権利の濫用に当たらないものと解するのが相当である。 |