ID番号 | : | 07240 |
事件名 | : | 処分無効確認等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 社会福祉法人七葉会事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 園外保育において蚊に刺された園児に薬を塗っている間に、園児を見失った二人の保母に対する減給処分あるいは七日間の出勤停止処分は重すぎるとして無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条9号 |
体系項目 | : | 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務懈怠・欠勤 懲戒・懲戒解雇 / 処分の量刑 |
裁判年月日 | : | 1998年11月17日 |
裁判所名 | : | 横浜地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成9年 (ワ) 95 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | 労働判例754号22頁/労経速報1698号20頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務懈怠・欠勤〕 〔懲戒・懲戒解雇-処分の量刑〕 園外において園児を離脱させることは、園児を各種の危険にさらすことになるから、原告X1としては、もう一人の担任である原告X2に対して他の園児を視野に入れておくよう声を掛けて、同原告との連携により他の園児についても視野から離さないようにする等の措置を採るべきであり、原告X1は右措置を採らなかった点に落ち度があるといわなければならない。 しかしながら、園外保育において蚊に刺された園児に薬を塗ることは、保母としての業務行為に含まれるから、原告X1が市民の森の出入口で園児数名に薬を塗ったことは、その場において必要な業務行為であり、その間、他の園児を視野に入れることができなかったとしても、やむを得ないものというべきである。また、原告X1は、薬の塗布行為を原告X2が見ているのを認識していたのであるから、原告X2において他の園児を見守っているものと信頼するのが通常であり、原告X1が原告X2との連携の確認を怠ったことに対して、原告X1に経済的な不利益を生じさせる減給処分を科することは、処分の程度として重すぎるというべきである。なお、原告X1は、園児に薬を塗る間、他の園児の足音に注意を払うべきであったとも考えられるが、蚊に刺されて泣いている園児もいる状況において、薬の塗布行為を行わない担任として原告X2がその場にいたのであるから、原告X1の役割としては、薬の塗布行為に専念してもやむを得ない。 したがって、原告X1が薬を塗っているときに両園児が園に向かったのに気付かなかったことについての本件減給処分は、処分の程度として重きに失し、被告の裁量権を逸脱するものとして無効というべきである。 3 他方、原告X2は、原告X1が園児に薬を塗っている間は薬の塗布箇所を向いて他の園児を視野に入れることができなくなることが分かっていたのであるから、原告X1に代わって蚊に刺されていない園児を視野に入れておく義務があったところ、市民の森の出口(ママ)の脇に生えていた山牛蒡や同じ場所にいたクワガタに気を取られて原告X1に背を向ける格好となり、園児全体を視野に入れなかったため、両園児が園に向かったのに気付かなかったのであるから、原告X1と比べてその責任は重いというべきである。 ただし、本件では、両園児がA託児員に保護されて事なきを得たため、原告らの行為は就業規則四五条一三号に該当するのみで、同条二号には該当しないのは前述したとおりである。そして、前記一に認定した事実によれば、市民の森の方から走ってきた両園児をA託児員が保護してから原告X1が来るまで四、五分からせいぜい一〇分程度と考えられるから、両園児が市民の森の出入口を出発してA託児員に保護されるまでの時間を含めても、両園児が原告らの保育から離脱した時間は、せいぜい一五分と考えられ、三〇分前後(〈証拠略〉)、又は二〇分ないし三〇分(〈人証略〉)は経過していないと認められる上、原告X2がミスをした翌日、報告書をB園長に提出し、その中で、今回のミスの原因を分析し、反省の言葉を記載している。さらに、園においては二〇名以上の三歳児の園外保育も担任二名に委ねており、特に、被告も桃組にはグループから離脱しがちな園児二名がいることを認識していたのであるから(弁論の全趣旨)、本件の両園児の離脱の責任を原告らのみに負わせることに全く問題がないとはいうことができないことも考え併せれば、原告X2が前回処分を受けていることを考慮に入れても、七日間の出勤停止という本件出勤停止処分は重きに失し、原告X2に対する処分としては減給処分で十分というべきである。したがって、原告X2に対する本件出勤停止処分も、被告の裁量権を逸脱し、無効である。 なお、被告は、原告X2の前回処分以降の行動も、本件出勤停止処分の内容の決定に当たって考慮すべきであると主張する。しかし、被告は同原告に前回処分以降、譴責を含め一切の懲戒を行っていなかったのであるから、仮に被告主張の問題の行動があったとしても、その程度は重大なものではなかったことは明らかである。同原告の今回の非違行為の内容、結果の発生の有無は前説示のとおりであって、同原告について前回処分以降に被告が問題視する行動があったとしても、そのことを理由に今回の処分に当たり減給処分を超え、出勤停止処分まで行うのは、なお重きに失するものというべきである。 4 被告は、一部認容を主張するが、出勤停止処分と減給処分は質的に別個の処分であるから、原告X2につき、適法な減給処分の範囲内で本件出勤停止処分に基づく賃金未払の一部を有効として、適法な処分と認められる限度を超えた部分に限り、請求を認容することはできない。 |