全 情 報

ID番号 07242
事件名 地位確認等請求事件
いわゆる事件名 京王自動車事件
争点
事案概要  同僚との間で無線ルール違反の有無をめぐり争いとなり、同僚の営業車両のエンジンキーを抜き取り乗務できなくしたことを理由とするタクシー乗務員に対する懲戒解雇につき、原告の行為と比較して過酷であり、懲戒権の濫用に当たり無効とされた事例。
参照法条 労働基準法89条9号
民法1条3項
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害
懲戒・懲戒解雇 / 処分の量刑
裁判年月日 1998年11月24日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 21790 
裁判結果 一部認容、一部棄却
出典 労経速報1694号3頁
審級関係 控訴審/07396/東京高/平11.10.19/平成11年(ネ)102号
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-業務妨害〕
〔懲戒・懲戒解雇-処分の量刑〕
 被告の府中営業所における無線ルールとして、平成九年六月二一日当時、無線センターの一回目の呼出しに応答するのは、所要時間五分以内かつ距離にして二キロメートル以内という取決めが存在していたと認められる。そして、Aがこの無線ルールの内容を正確に理解していたかはともかく、A自身、被告の府中営業所長に宛てた報告書で、無線を少し遠くから取ったくらいでここまですることはない旨の内容を記載しており、自分の無線呼出しへの応答に問題があったことを認めており(書証略)、原告が、Aが無線ルールに違反したと判断したことには、相当な理由があるといえる。
 ただし、原告がAに対する無線ルール違反を問いただすにとどまらず、Aの車両のキーを持ち去り、他の乗務員の営業を二〇分にわたり不可能としたことは、行き過ぎた行為であり、懲戒事由に該当するものと認められる。
 しかしながら、前記のとおり、本件については、〔1〕 無線営業が乗務員の給与収入に直結するため、無線ルールをめぐるトラブルが生じやすい状況下で、Aの無線呼出しに対する応答が無線ルールに照らし問題のあるものであったことが契機となっており、原告がAが無線ルールに違反したと判断したことに相当の理由があるから、動機において同情すべき点があること、〔2〕 原告のAに対する行為の態様は偶発的なものであること、〔3〕 原告が車両のキーを持ち去ったことについても、その結果は、Aが二〇分間車両を動かせず、また、Aにスペアキーを届けた乗務員二名が届けた間と事情聴取の間営業できない状態となったにとどまり、公共の交通に障害を生じた事実は認められないこと、〔4〕 本件紛争自体、乗務員同士のものであって、被告の対外的信用を棄損するようなものでなかったこと、〔5〕 原告とAは、営業所に帰庫した後、いったんは当直の主任のとりなしにより和解したこと、〔6〕 原告は過去一一年の勤続期間中、数度にわたり表彰を受けるなど勤務態度は良好で処分歴もないこと等の事情を総合勘案すると、被告が原告に対し、懲戒解雇を行うことは、原告の行為の程度と比較して過酷であるといわざるを得ず、本件懲戒解雇は相当性を欠き、懲戒権の濫用に該当するもので無効といえるから、原告は被告の従業員としての地位を有すると認められる。