ID番号 | : | 07243 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日鉄鉱業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 炭鉱作業に従事していた下請企業労働者のじん肺罹患につき、炭鉱を経営していた会社に安全配慮義務違反があったとして、損害賠償責任が認められた事例。 |
参照法条 | : | 民法415条 じん肺法4条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 1998年11月25日 |
裁判所名 | : | 長崎地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成8年 (ワ) 605 平成9年 (ワ) 223 平成9年 (ワ) 335 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(控訴) |
出典 | : | 時報1697号3頁/タイムズ1019号182頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 三 争点3(下請鉱夫に対する安全配慮義務)について 1 二においては、雇用契約上の付随義務として認められる安全配慮義務を検討したが、安全配慮義務は、ある法律関係に基づき特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般的に認められるべきものであって(最高裁昭和四八年(オ)第三八三号同五〇年二月二五日第三小法廷判決・民集二九巻二号一四三頁参照)、必ずしも直接の雇用契約関係を必要とするものではないと解される。この点、下請企業と元請企業との間の請負契約に基づき、下請企業の労働者が、下請企業を通じて元請企業の指定した場所に配置され、元請企業の供給する設備、器具等を用い、元請企業の指示のもとに元請企業が直接雇用する労働者と同様の労務の提供を行うといった事情がある場合には、下請企業の労働者と元請企業は、直接の雇用契約関係にはないものの、元請企業と下請企業との請負契約及び下請企業とその労働者との雇用契約を媒介として間接的に成立した法律関係に基づき特別な社会的接触の関係に入ったものと解することができ、このような場合には、実質的に見ても、元請企業は作業場所、設備、器具等の支配管理又は作業上の指示を通して、物的環境や作業内容上からくる下請企業の労働者に対する労働災害や職業病の発生を予見し、これらを回避するための措置をとることが可能であり、かつ、信義則上、右災害等の発生を予見し、その結果を回避するための措置をとることが要請されてしかるべきであると考えられるから、元請企業は、下請企業の労働者が当該労務を提供する過程において、安全配慮義務を負うべきものと解するのが相当である。 2 これを本件について見ると、証拠等により、以下の事実を認めることができる。(〈証拠略〉) A会社は、独自の組織を有し、被告とは別個の独立した企業であり、被告が経営するB鉱業所坑内における一部箇所の掘進作業を請け負っていた。A会社に雇用されて右作業に従事した労働者は、その作業の性質上、当然に被告が指定した場所、即ちB鉱業所に配置されることになり、同鉱業所で就労する掘進夫の作業内容は、被告に雇用された者とA会社に雇用された者とで違いはなかった。また、被告は、同鉱業所における主要な設備を支配・管理し、掘進作業を請け負ったA会社に対し、坑枠鋼、ペーシ、ボルトナット、爆薬、雷管、坑木を供給したほか、A会社に雇用されてB鉱業所で働く作業夫が使用するさく岩機やピックも被告が供給していた。そして、A会社の代表者又はその代理人は、常に現場に出頭して被告が指定する現場監督員の指揮監督に従うこととされ、被告は、A会社が使用する作業夫の技術等が不適当と認めたときは、同社に作業夫の変更を要求することができるものとされていた。 3 このような事実のもとでは、A会社に雇用され、B鉱業所において掘進作業に従事した亡Cら二名は、直接被告等に雇用されていたわけではないものの、1記載の基準に照らし、被告と特別な社会的接触関係に入ったものと解することが相当であって、実質的にも、被告は、作業場所や設備の支配管理又はA会社の代表者又はその代理人を介した作業上の指示を通して、A会社に雇用された労働者のじん肺罹患を予見し、その結果を回避するための措置をとることが可能であり、かつ、信義則上、右結果発生を予見し、これを回避するための措置をとることが要請されてしかるべきであるから、被告は、本件下請鉱夫らに対しても、安全配慮義務を負っていたというべきであり、その内容は、二3(一)に記載したのと同様である。なお、A会社に雇用された作業夫が使用する防じんマスクについては、被告がこれを支配・管理していたことを認めるに足りる証拠はないが、一1において認定した坑内環境の中で掘進作業に従事させる以上、被告には、本件下請鉱夫らに対し、適切な防じんマスクを自ら貸与又は支給若しくはA会社をして貸与又は支給させる義務もあったというべきである。〔中略〕 諸般の事情、とりわけ元従業員原告らの労働能力の喪失又は低下を含む健康被害の程度、じん肺の特質、被告等の安全配慮義務不履行の態様、本訴提起の態様及び意向(本訴請求は慰謝料を対象とするものであるが、財産的賠償は別途請求するというものではなく、むしろ原告らはいかなる形態にしろ別訴を提起する意思のないことを訴訟上明確に宣明し、原告ら自身これに拘束されていること)等を総合考慮すると、原告元従業員の慰謝料額は、じん肺に罹患したことが原因となって死亡した亡D、亡E、亡F及び亡Cについては各二二〇〇万円、管理四該当者である原告X1、同X2及びX3については各二二〇〇万円、管理三ロ該当者で合併症のある原告X4については一九〇〇万円、管理二該当者で合併症のある原告X5及びX6については各一三〇〇万円、管理二該当者で合併症のない原告X7、同X8、同X9、同X10、同X11については各一〇〇〇万円とするのが相当である。 |