ID番号 | : | 07251 |
事件名 | : | 退職金請求事件、損害賠償反訴請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 久保税理士事務所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 退職金の計算につき、使用者の死亡による雇用契約の終了は、使用者の都合による解雇と変わらないとして、「事務所の都合による解雇」という退職金支給規定に基づく退職金額の支払が命ぜられた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条3の2号 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算 |
裁判年月日 | : | 1998年12月18日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成9年 (ワ) 11791 平成10年 (ワ) 3672 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(確定) |
出典 | : | 労働判例758号30頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-退職金-退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕 1 前記前提となる事実によれば、本件雇用契約は、A税理士の死亡によって終了したものであるところ(本件雇用契約は、A税理士の税理士資格を前提とした雇用契約であるから、一身専属性を有し、同税理士の死亡によって終了すると解される。)、本件退職金支給規定には、使用者の死亡によって雇用契約が終了した場合については、明示の定めがない。 しかしながら、使用者の死亡による雇用契約の終了は、もっぱら使用者側の事情によるものであって、従業員にとっての利益状況は使用者の都合による解雇と何ら変わりがないというべきであるから、かかる場合に退職金が支給されないとすることが当事者の合理的意思に合致するものとは考えられず、かかる場合にも、従業員は、本件退職金支給規定第3項による退職金請求権を取得し、これをその相続人に対し請求することができると解すべきである。したがって、原告らは、被告に対し、本件退職金支給規定第3項による退職金を請求することができる。 2 そこで、退職金の額について見るに、(証拠略)によれば、原告らの退職金の額は、別表(二)の「退職金額」欄のとおりであると認められる(なお、原告らの退職の日は平成九年六月八日とし、また、原告X1、同X2、同X3及び同X4の勤続年数は、原告らの主張に従い、昭和六〇年九月一日から計算した。)。 この点につき、原告らは、物価手当も退職金計算上の基本給に含まれると主張する。しかしながら、本件退職金支給規定上、退職金算定の基礎とされるのは「基本給」であると明示されている以上、原則として文理解釈をすべきであって、これと異なる慣行の存在やかかる解釈をすることが当事者の合理的意思解釈に明らかに反する等の特段の事情がない限り、退職金は名目上の基本給のみを基礎に計算すべきである。そして、本件においては、右特段の事情は認められない。 3 これに対し、被告は、原告らが、A税理士死亡後、顧問料等の回収を放棄し、また、関与先を奪い取るなどの背信行為を行ったとして、これが本件退職金支給規定における退職金不支給事由に該当すると主張するとともに、原告らの退職金請求が権利の濫用に当たると主張する。 しかしながら、原告らとA税理士の雇用契約は、A税理士の死亡によって終了し、その時点で原告らに本件退職金支給規定に定める退職金不支給事由がなかった以上、原告らの退職金請求権は確定的に発生し、右退職金支払債務を被告が相続したと解すべきであるから、その後の原告らの行為について本件退職金支給規定を適用する余地はなく、また、被告は原告らに対する使用者としての地位を承継したものではないから、その後の原告らの被告に対する行為を理由に原告らの退職金請求が権利の濫用となる余地もないというべきである。 したがって、退職金支払義務がないとする被告の主張は理由がない。 |