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ID番号 07252
事件名 慰謝料等請求事件
いわゆる事件名 大阪セクシュアルハラスメント(運送会社)事件
争点
事案概要  会社の飲み会後のカラオケにおける男性上司による女性従業員へのセクシュアルハラスメントにつき、一〇〇万円の慰謝料の支払が会社と行為者に命ぜられた事例。
参照法条 民法709条
民法710条
民法715条
体系項目 労基法の基本原則(民事) / 均等待遇 / セクシャル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント
裁判年月日 1998年12月21日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 平成10年 (ワ) 732 
裁判結果 一部認容、一部棄却(控訴)
出典 時報1687号104頁/タイムズ1002号185頁/労働判例756号26頁
審級関係
評釈論文 山川隆一・ジュリスト1172号133~135頁2000年2月15日/酒井正史・平成11年度主要民事判例解説〔判例タイムズ臨時増刊1036〕374~375頁2000年9月
判決理由 〔労基法の基本原則-均等待遇-セクシャル・ハラスメント〕
 それぞれの記載や供述には、原告が被告Yに抱きつかれていたこと、被告YがAのブラウスの胸のボタンを外したり、スカートをめくろうとしたこと、Bに対して原告を帰すなと告げたことなど、前記認定事実の存在を記述する原告の陳述書及び原告本人の供述と部分的に一致する部分も多く、前述の被告Yの行為が、本件飲み会の多人数が入れ替わり立ち替わりステージで歌い、飲食して、ふざけたり、騒いだりする喧噪の中のできごとであって、それぞれが原告や被告Yに関心を持って一部始終を見ていたわけではなく、重大なことがなされていたという認識はなく、単にふざけていると誤解した者があっても不思議はないうえ、被告Yの言動を目撃した者も、被告会社から事情聴取を受ければ、自己の参加した飲み会でわいせつ行為ないし性的いやがらせがあったとは言い難いであろうし、そこに保身の心情が働くことも十分に考えられるところであって、これらからすれば、右各書証の記載及び(人証略)の供述中、前記認定に反する部分は採用できないというべきである。
 また、被告Y本人も、わいせつ行為を否定する供述をするが、その供述は不自然な部分も多く、原告本人の供述に照らし採用することはできない。
 3 以上によれば、被告Yが二次会において原告に対してなした一連の行為は性的いやがらせということができ、原告に対する不法行為に該当するというべきである。原告がわいせつ行為という趣旨は、右性的いやがらせを含んで主張するものと解される。
 二 争点2について
 1 前記認定のとおり、被告Yは、ドライバーとオフィスコミュニケーターとの懇親を図るために本件飲み会を企画し、Cを通じて原告に誘いかけ、原告が一次会で帰宅しようとすると「カラオケに行こう。」と二次会に誘い、嫌がる原告に対し仕事の話に絡ませながら性的いやがらせを繰り返したのであるから、右性的いやがらせは、職務に関連させて上司たる地位を利用して行ったもの、すなわち、事業の執行につきされたものであると認められる。
 2 この点、被告会社は、原告が既に平成九年九月二五日に営業二課D班から営業一課E班に配置転換され、被告Yは原告の上司ではなくなったのであるし、被告会社は男性ドライバーとオフィスコミュニケーターとの私的な飲み会を禁止し、現に被告Yから本件飲み会が開始される時点で被告会社には内緒にしておくようにと発言されていたので、本件飲み会が被告会社の事業の執行と関係がないことは明らかであり、被告会社は責を負わないと主張する。
 しかしながら、(人証略)の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、Fは、原告にとってオフィスコミュニケーターとしての仕事が体力的にきついため、平成九年九月二五日、Gビルの地下の一室での事務作業に従事させたこと、その際に原告に配置転換する旨の辞令を交付したわけでも、オフィスコミュニケーターの制服を回収したわけでもなく、同年九月二七日に開催した被告会社主催の第一期オフィスコミュニケーター歓迎会にも招待したことが認められ、これらの事実に照らせば、Gビルの地下での業務は原告の体力が回復するまで一時的に命じたものにすぎず、被告Yと原告との上下関係を完全に切断するものとは言い難い。また、(証拠・人証略)、被告Y本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告会社は、男性ドライバーとオフィスコミュニケーターとの私的な飲み会をしないよう通知していたと認められるが、単に口頭で右通知を繰り返したにとどまるもので、現に一二名もの従業員が本件飲み会に参加したことに照らせば、被告会社の右通知は従業員にはさほどの重みを持って受け止められていなかったものと認められる。
 してみれば、単に被告会社の通知に反して飲み会が開催されたというだけで、右飲み会において行われた被告Yの行為が被告会社の業務執行性を失うと解すべきではない。〔中略〕
 そうすると、前記認定のとおり、原告は被告Yから職務に関連して性的いやがらせを受け、その結果人格権及び性的自由を害されたものであって、被告会社への出勤が困難であるとするその心情は理解することができるものの、原告がGビル所在の被告会社事務所に出勤したとしても被告Yと顔を合わせる現実的危険性は乏しく、原告が再度性的いやがらせの被害に遭う可能性があったとは認められないこと、被告会社が一般的な職場改善策を採るべきであるとまではいえないことを考慮すると、原告が平成九年一〇月七日以降出勤しないことが被告会社の責に帰すべき事由によるものであるとはいえないというべきである。
 四 損害額
 前記認定のとおり、被告Yは、原告に対し、被告会社の事業の執行について性的いやがらせを行ったと認められるのであるから、被告Yは民法七〇九条に基づき、被告会社は民法七一五条に基づき、右性的いやがらせによって原告が被った損害を賠償する義務を負うところ、その賠償額は、以下の12のとおり、合計一一〇万円が相当である。
 1 慰謝料
 前記認定に係る諸事情、特に、原告は、被告会社に雇用されて約一か月しか経過していないのに、その上司たる被告Yに仕事の話に絡められながら性的いやがらせを受け、そのことにより人格権及び性的自由に対する重大な侵害を受けたこと等の諸般の事情を考慮すると、原告が被告Yの不法行為によって被った精神的苦痛を慰謝するには一〇〇万円をもって相当とする。