ID番号 | : | 07256 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分命令申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 北原ウエルテック事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 整理解雇につき、希望退職募集等の回避努力を尽くしていないこと、従業員への説明・協議を採らずに実施されたとして、右整理解雇が無効とされた事例。 関連会社への一年間の出張命令につき、本人の同意なくなされた業務命令権の行使であるとして、権利濫用に当たり無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 民法1条3項 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 業務命令 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の限界 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇の回避努力義務 解雇(民事) / 整理解雇 / 整理解雇基準・被解雇者選定の合理性 |
裁判年月日 | : | 1998年12月24日 |
裁判所名 | : | 福岡地久留米支 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成10年 (ヨ) 75 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下 |
出典 | : | 労働判例758号11頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔解雇-整理解雇-整理解雇の回避努力義務〕 〔解雇-整理解雇-整理解雇基準〕 (一) 一般に、不況等に伴う経営合理化のために余剰人員削減の手段として行われるいわゆる整理解雇は、労働者がいったん取得した雇用契約上の地位を労働者の責に帰すべからざる事由によって一方的に失わせるものであり、労働者の生計に与える影響も大きいから、それが有効であるというためには、〔1〕 企業経営上、人員削減を行うべき必要性があること、〔2〕 解雇回避の努力を尽くした後に行われたものであること、〔3〕 解雇対象者の選定基準が客観的・合理的であること、〔4〕 労働組合又は労働者に対し、整理解雇の必要性とその時期・規模・方法につき、納得を得るための説明を行い、誠意をもって協議すべき義務を尽くしたこと、の各要件をいずれも充足することが必要であると解される(以下、右の要件は〔1〕ないし〔4〕の数字のみで特定することもある。)。〔中略〕 (四) 以上の認定事実を合わせ考慮すれば、債務者がその経営を維持する上で人員削減を必要としており、本件解雇に当たっても債務者なりに努力と配慮をしていることは一応認めることができるものの、整理解雇が従業員の意思とは無関係に従業員の地位を一方的に失わせ、その生活に重大な影響を及ぼすものであることに照らせば、本件解雇に先立って、希望退職者の募集等の整理解雇を回避するための措置や、従業員への説明・協議の措置を尽くす必要があったというべきであり、これらの措置を採らずに実施した本件解雇は、その手続面において合理性を欠いていると解するのが相当である。 したがって、本件解雇が権利の濫用に当たり無効であるとの同債権者らの主張は一応理由がある。〔中略〕 〔労働契約-労働契約上の権利義務-業務命令〕 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の限界〕 (一) 本件出張命令は、債務者とは別会社である株式会社Aに対する出張を命じるものであって、いわゆる出向(労働者が雇用先の企業に在籍したまま、他の企業の事業所において相当長期間にわたって当該他企業の業務に従事するもの)に当たるものである。 しかして、出向は、一般には、労働契約の内容に重大な変更をもたらすことが多いから、就業規則に規定があるか、労働者の債務者の(ママ)個別的な同意がなければ出向させられないと解すべきであるが、形式的には別企業への出向であっても、転勤と同視できるような特段の事情がある場合には、出向(転勤)の必要性とそれによる労働者の不利益とを比較衡量し、その適否を判断すべきものと解される。 (二) これを本件について見ると、確かに、株式会社Aは、債務者の関連会社で、役員のうち代表取締役(B)、取締役一名(C)及び監査役(D)は債務者と右同社を兼務しており、本社工場かつ本店所在地も同一(久留米市(略))である(〈証拠略〉、本件記録編綴の債務者の商業登記簿謄本)が、他方で、同債権者が出向を命じられたのは株式会社Aの熊本事業所(熊本県下益城郡松橋町。〈証拠略〉の裏表紙参照)であり、かつ、従事する業務も債務者では研磨工であったのに対し、株式会社Aでは本件出張命令上は機械組立とされ(〈証拠略〉)、実際には配送、検品等の作業を担当していること(〈証拠略〉、同債権者の審尋結果)に照らすと、本件出張には転勤と同視できるような特段の事情があるとは認め難いというべきである。 そうとすれば、同債権者の同意を得ることなく、株式会社Aへの出張を命じた本件出張命令は、業務命令権の濫用に当たると解される。 (三) また、仮に、本件出張が実質的には転勤と同視できると解するにしても、本件出張命令に至る経緯に照らせば、株式会社Aに債務者の従業員一名を転勤させるに際し、同債権者が適任であるかどうか、他の従業員で同債権者より不利益の少ない者がいないかどうか等の諸点を比較検討した上で決定されたものとは窺われず、むしろ、同債権者に解雇通知を送付したところ、名前が違うから自分に対するものではないと抗議されたことを受けて、本件出張を命じたものと窺われるものであって(前記第三の四の1ないし3の事実及び同債権者の審尋結果によれば、同債権者が解雇通知の名前が違うと指摘した当日(平成一〇年七月二二日)に、債務者は、右解雇通知を撤回するとともに、口頭により本件出張を命じた上、後日、本件出張命令書を交付したことが一応認められる。)、右の経過に照らすと、本件出張命令は同債権者に退職を余儀なくさせる意図で行われたと推察されないではなく、仮にそうでないとしても、出向者として同債権者を選定したことに合理性があったとは認め難いというべきである。 (四) 以上によれば、同債権者に対する本件出張命令は、いずれにしても無効であると解すべきであり、出向規定に基づくか否かは右判断を左右しないところ、他に右判断を左右するに足りる証拠はないから、本件出張命令は業務命令権の濫用であって無効であるとの同債権者の主張は一応理由がある。 |