ID番号 | : | 07262 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 東洋精箔事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 金属箔を製造する工場で竪型焼鈍炉における作業中、同所に設置されたピット内で作業員が酸欠死した事故につき、会社に安全配慮義務違反があるとして、損害賠償の支払が命ぜられ、過失相殺は相当でないとされた事例。 |
参照法条 | : | 民法415条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任 |
裁判年月日 | : | 1999年1月18日 |
裁判所名 | : | 千葉地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成7年 (ワ) 1299 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(確定) |
出典 | : | 労働判例765号77頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕 本件事故は、被告のアルゴンガスの危険性及びアルゴンガス漏れによる酸欠事故の危険性に対する認識が不十分であったため、現場の作業員にかかる危険性の周知がされておらず、しかも酸欠事故防止のための教育指導、安全管理体制や安全装置の設置、酸欠事故発生の場合の対応措置等がいずれも不十分であったために生じたものと認められ、被告が、従業員を酸欠事故の発生するおそれのある場所で作業させていることや実際に秋田工場のピット内で酸欠事故が発生していることを考慮して、ガス圧の調整・管理に十分注意するとともに、計器類の確認や酸素濃度の測定、二人作業体制等の教育指導、安全管理を徹底し、本件ピット内に排気装置や警報装置などの安全装置等を設置していれば、本件事故は発生しなかったものと考えられるのであって、被告には、従業員の生命、身体に対する安全配慮義務を怠った過失が認められ、被告は、本件事故により亡Aが死亡したことについて、債務不履行ないし不法行為上の責任を負うというべきである。 被告は、本件ピットが労働安全衛生法、同法施行令、酸素欠乏症等防止規則において酸素欠乏危険場所とされておらず、また、従前監督官署からの指導、勧告を受けたこともないと主張するが、酸素欠乏症等防止規則二二条の二によれば、酸素欠乏危険場所の指定の有無にかかわらず、タンク、反応塔等の安全弁等から排出される不活性気体が流入するおそれがあり、かつ、通風又は換気が不十分な場所で労働者を作業させる場合には、不活性気体が当該場所に滞留することを防止するための対策を講じる必要があるとされており(〈証拠略〉)、また、前述のとおりの本件ピットの構造や、アルゴンガスを使用していることから、本件ピット内にアルゴンガス漏れが生じて滞留するおそれのあることは容易に予測しうると考えられることからすれば、本件ピットが酸素欠乏危険場所に指定されていないことなどをもって、被告の責任が回避されるということは到底できない。 7 ところで、本件事故発生時、亡Aは、一人で本件ピット内に降りて作業を行っているうえ、本件ピット内に入る際計器類を事前に確認したものとは思われず、このことが本件事故を惹起する一因になったとも考えられるものの、前述のとおり、本件事故当時、被告では、従業員に二人作業体制や計器類の事前確認を徹底するような指導はしておらず、恒常的に一人で作業するような体制がとられていたこと、亡Aが被告入社後わずか六か月しか経過しておらず、被告から本件ピット内でアルゴンガス漏れによる酸欠事故が発生する可能性を具体的かつ徹底的に教育指導されていたわけではなく、そのため、亡Aだけでなく、従業員らはアルゴンガスの危険性及び本件ピット内におけるアルゴンガス漏れによる酸欠事故の可能性をそれほど留意することなく本件ピット内に立ち入っていたこと、そして前述したような被告の過失の重大性に鑑みれば、本件では、亡Aの死亡による損害額の算定に当たって過失相殺をすることは相当でない。 |