全 情 報

ID番号 07264
事件名 雇用関係存在確認等請求事件
いわゆる事件名 秋草学園事件
争点
事案概要  履歴書に職歴の不実記載をしたこと、学生や教職員に暴言等をしたこと等を理由とする私立短大教員に対する解雇につき、解雇事由としての職務の適格性の欠如に相当するまでの事実は認められないとして、右解雇が無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 解雇(民事) / 解雇事由 / 暴力・暴行・暴言
解雇(民事) / 解雇事由 / 経歴詐称
裁判年月日 1999年1月21日
裁判所名 浦和地川越支
裁判形式 判決
事件番号 平成7年 (ワ) 681 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例763号74頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔解雇-解雇事由-暴力・暴行・暴言〕
〔解雇-解雇事由-経歴詐称〕
 職務の適格性の有無
 以上によれば、被告が主張する解雇理由(抗弁2)の各事実のうち、(一)の履歴書に真実とは異なる職歴を記載を(ママ)したこと、(二)2の生徒や教員に対する暴言等のうち(4)を除くその余の事実、(三)の教授会における暴言等の各事実、(四)の職務放棄行為の各事実については、いずれもこれを認めることができる。
 そこで、次に原告のこのような行為が被告就業規則三八条三号にいう「この職務に必要な適格性を欠くと認められるとき」に該当するかどうかを検討する。
 1 右条項にいう「職務に必要な適格性を欠く」とは、その表現自体、かなり抽象的であって、これを一義的に決することは困難な概念であるが、それが教職員の労働契約上の地位を一方的に奪う結果を招来させる「解雇事由」とされていることに照らし、当該教職員の能力、素質、性格等に起因して、その教職員の担うべき職務の遂行に支障があり、かつ、その矯正が著しく困難で、今後、当該組織体において、教職員として処遇するに堪えないと認められるような場合をいうものと解するのが相当である。
 そして、これを本件に即してみると、まず、履歴書は、それが当該教職員の採否を決する際の最も基本的かつ重要な判断資料となるものであるから、殊更これに虚偽の記載をすることは、その判断を誤らせる危険性の高い行為として、それ自体、教職員としての適格性に疑問を呈する事由になりうるというべきであるが、他方、これが問題とされるのが労働契約締結後であって、当該教職員が既にその組織体において稼働しており、当該組織体から生活の糧を得ている状況下にあることを考慮すると、その不実記載を理由に適格性の有無を判断するに当たっては、その形式面の重要性のみならず、当該不実記載の内容、程度、実際の本人の職務遂行能力、素質、不実記載がなされるに至った経緯及びその不実記載により、使用者がどのように判断を誤り、そのために損害を被ったか等を慎重に検討して決する必要があると解すべきである。また、学生や教職員に対する暴言等や職務放棄行為については、これらの個々の事実の具体的内容のみならず、当該行為に至った背景事情や周囲に及ぼした影響、当該職務行為の重要性等をも考慮した上で、何度注意しても改まらないなど、それが当該教職員の容易に矯正しがたい素質や性格に基因するものとして職務の遂行に支障をきたすと認められる場合に限り、教職員としての適格性を欠くものということができると解するのが相当である。〔中略〕
 本件履歴書の記載は正確性を欠くものであって、軽卒(ママ)のそしりを免れないものではあるが、その実質を考えると、原告に特段悪意は認められず、その職務遂行能力に影響はなく、これにより被告が原告に対する評価を誤って採用すべきでない人を採用し、そのため損害を被ったなどの事情は一切認められないのであり、したがって、これをもって職務に必要な適格性を欠くと評価することはできないというべきである。〔中略〕
 被告が指摘する右の解雇事由をもって、原告の容易に矯正しがたい素質、能力、性格に起因するものとして職務の遂行に支障をきたすものであると断定することは未だ困難であるといわざるをえない。
 以上によれば、原告には就業規則三八条三号に該当する事実は認められない。