全 情 報

ID番号 07267
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 シグナ傷害火災保険事件
争点
事案概要  競業避止義務違反を理由とする損害賠償の請求につき、本件競業避止契約には意思の合致がなかったとして、右請求が棄却された事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 競業避止義務
裁判年月日 1999年1月22日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 27725 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1693号28頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-競業避止義務〕
 まず、一般論として、本件競業避止契約が双方の合意により成立する契約であり、契約書の作成が契約成立の要件でないことは原告主張のとおりである。そして、退職届(書証略)には、被告代表者の提案を受け入れる旨の記載があるのは、前記のとおりである(なお、被告代表者は、その本人尋問において、原告の退職届を見ていない旨供述するが、原告が被告に対し、退職届を提出したのは前記のとおりであり、たまたま被告代表者が見ていなかったとしても、被告が受領していないということはできない)。
 しかし、この時点における原告の本件競業避止契約に対する理解は、期間を三年、再就職を避けなければならないのは外資系の損害保険会社に限定されるというものであり(書証略)、そもそも、競業避止の対象を外資系の損害保険会社に限定する趣旨ではなかった被告代表者の提案と一致していない上、退職届に記載されている「期間内に該当する企業への再就職の機会があったときは、被告の承諾を得る」という部分については、平成八年一一月六日、被告代表者から原告に対して本件競業避止契約の申入れがあった際に話題になった形跡もない。
 これらのことからすると、この時点で、期間を三年とし、日本法人、外国法人を問わず、被告と競業関係に立つ損害保険会社に再就職しないことを条件として補償金を支払う旨の合意が成立したというには疑問がある。〔中略〕
 右によれば、原告が誓約書に署名しなかった理由が「誓約書」第四項の解釈に疑義があったためであるということはできず、かえって、前記のとおり、A副社長やBを通じて被告代表者に対し、再就職を避けなければならない損害保険会社の範囲を限定していない誓約書の条項の変更可能性について確認していたこと、右の点について変更はあり得ないとの回答を得た後も「誓約書」に署名していないことからすれば、原告としては、本件競業避止契約の最重要部分ともいうべき競業避止の対象について被告の提案に納得しなかったために「誓約書」に署名しなかったものと推認することができるのであって、そうだとすれば、本件競業避止契約は、原告が被告を退職した平成八年一二月三一日時点では、原告と被告との間で意思の合致はなく、したがって、合意には至っていなかったものと言わざるを得ない。