全 情 報

ID番号 07269
事件名 地位保全等仮処分命令申立事件
いわゆる事件名 学校法人藍野学院事件
争点
事案概要  出向命令拒否を理由とする解雇につき、出向を命じるには労働者の同意その他これを法律上正当付ける特段の根拠が必要であるところ、本件においては就業規則等にそのような規定は存在しないので、出向命令は無効であり、出向命令拒否を理由とする解雇も無効とされた事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 配転・出向・転籍・派遣 / 出向命令権の根拠
解雇(民事) / 解雇事由 / 業務命令違反
裁判年月日 1999年1月25日
裁判所名 大阪地
裁判形式 決定
事件番号 平成10年 (ヨ) 3679 
裁判結果 認容
出典 労働判例759号41頁/労経速報1712号6頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔配転・出向・転籍・派遣-出向命令権の根拠〕
〔解雇-解雇事由-業務命令違反〕
 疎明資料(〈証拠略〉)によれば、債務者の就業規則上、学院外に出向し、他の業務に従事するときは休職とする(五二条一項五号)旨の規定があることが認められる。
 ところで、出向を命ずるには、労働者の承諾その他これを法律上正当づける特段の根拠が必要であるところ、就業規則に出向義務を明確に定めた条項がある場合は右特段の根拠にあたり、使用者は出向命令権を有すると解すべきであるが、就業規則に労働者の出向義務が明確に定められていると解しうるのは、就業規則上、「出向」、「社外勤務」など他社の指揮監督の下で業務に従事することを明らかにする文言が置かれているなど、労働者の出向義務の発生自体を明らかにする規定がある場合であるというべきで、本件のように使用者が労働者に休職を命じうる場合の一事由として出向を規定しているに過ぎない場合には、就業規則上、労働者の出向義務を明確に定めたものとは解されないというべきであり、その他、債務者の就業規則上、労働者の出向義務を明確に定めた条項は存在しないので、債務者の就業規則によって、債権者に本件出向命令による出向義務は発生しないというべきである。
 なお、債務者は、学長などは、業務の必要により、職員の職場の変更又は職種の転換を命ずることがあること、職員は正当な理由なくして、これを拒んではならない旨の規定(〈証拠略〉)をもって、本件出向命令の正当性を基礎づける債務者の就業規則上の根拠規定であると主張するが、まず、右文言自体、債務者において労働者に対し、債務者における内部的な就労場所の変更あるいは従事する職種の転換を命じうることを規定しているに過ぎないと解するのが日本語として素直な読み方であろうと解されるし、前記の判断基準に照らしても、労働者の出向義務の発生自体を明確に定めた規定とはとうてい解しえないので、債務者の右主張は採用できない。
 3 争点二3について
 (一) 疎明資料及び審尋の結果を総合すれば以下の事実が一応認められる。
 (1) 事務職員の出向につき、A会から債務者への出向は従前から行われていた。
 (2) 事務職員の出向につき、平成五年にA会に入職した申立外Bが平成七年、債務者からA会の設置するC病院へ転籍した例があるものの、債務者からA会への転籍がかなりの人数で実施されるようになったのは平成九年以降である。
 (3) A会の就業規則上、従前は、債務者の就業規則六条(学長などは、業務の必要により、職員の職場の変更又は職種の転換を命ずることがあること、職員は正当な理由なくして、これを拒んではならない旨の規定)と同趣旨の規定が置かれていたが、就業規則が改定され、平成三年一〇月一日付けで、病院は職員に対し、業務上の必要により、関連病院、関連会社及び関連学校に出向または転籍を命ずることがあること、職員は正当な理由なくしてこれを拒むことはできない旨(一三条)の規定が施行されているものの、債務者の就業規則は従前のとおりである。
 (二) 右によれば、事務職員の出向につき、A会から債務者への出向は従前から行われていて、従前の慣行を前提として、平成三年には、A会の職員の出向義務を明確に定めたものと解される就業規則の改定がなされているのに比し、債務者からA会への出向は、平成七年に一例あるものの、かなりの人数で実施されるようになったのは、平成九年以降であり、債務者の就業規則も従前のとおりであることが一応認められる。右事実に照らせば、いまだ、事務職員につき、債務者からA会への出向が慣行として確立しているとまでは一応にしろ認め難いし、その他これを一応にしろ認めるに足る疎明はないと言わざるを得ない。
 4 以上によれば、本件出向命令は、債権者の同意がなく、その他法律上その正当性を基礎づける事実も認め難く、無効なものと言わざるを得ない。
 三 争点三について
 そうすると、債権者が無効な本件出向命令に従わなかったことを理由とする本件解雇の意思表示も無効なものと解さざるを得ない。