全 情 報

ID番号 07274
事件名 懲戒処分取消請求事件
いわゆる事件名 田川市職員事件
争点
事案概要  市役所土木課作業員で指導員の職にあった原告が、退庁後の公用車の使用、不適切な勤務態度、市有財産の不正流用などを理由として六か月の停職処分を受けたことにつき、裁量権の逸脱があるとして、右処分が取り消された事例。
参照法条 労働基準法2章
体系項目 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒権の濫用
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 信用失墜
裁判年月日 1999年1月27日
裁判所名 福岡地
裁判形式 判決
事件番号 平成6年 (行ウ) 17 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働判例759号34頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-信用失墜〕
 地方公務員法三三条に規定する信用失墜行為の禁止は職員身分の保有に伴う義務であり、職務外の個人的行為であっても公務員全体の名誉を損なうことになるような場合には、同条所定の信用失墜行為に該当すると解すべきであるところ、右認定にかかる原告の飲酒は年次休暇届出後の勤務時間外の行為ではあるけれども、当人にとっては勤務時間外とはいえ、日中、公用車を酒店の前に駐車させて飲酒すれば、一般市民がこれを見て、公務中の飲酒であると勘違いし、公務員一般に対する信頼を損なう可能性が十分にあるから、公務員の信用を失墜する行為に該当するというべきである。しかしながら、証拠(〈証拠略〉)によれば、当時、田川市においては全庁的に公用車の管理体制に甘さがある旨指摘されていることが認められることに照らせば、公務外の用件で公用車が使用されることもあったと推認されること、また、原告の飲酒量は比較的少量であり、時間的にも昼休み時間のうち十数分であることからすると、原告への非難の程度は特に重大であるとまでは認められない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒事由-職務上の不正行為〕
 被告の主張するところの原告が市有財産であるAを私的に流用したという事実を認定することはできないが、原告は勤務時間中に部下作業員に指示して、公務と関係のない私人(〈人証略〉の証言及び原告の供述によれば、両名は親戚である。)宅で資材の運搬及び設置をさせたものであり、全体の奉仕者として公共の利益のために勤務することを義務づけられた公務員の服務の根本基準に反するものである。しかしながら、市有財産の流用の事実は認められないほか、証拠(〈証拠・人証略〉)によれば、前記平成五年三月二六日付け被告の原告に対する一か月間停職を命ずる旨の懲戒処分にかかる処分事由の一つは、原告が平成二年四月二四日から同月二五日にかけて市道等補修時にB宅屋敷内舗装を指揮して資材の投入等により田川市に損害を与えたとされていることであることが認められるところ、右認定の事実関係は右過去の懲戒処分事由と時間、場所、内容において密接に関連するものであることを考慮すれば、改めてこれについて懲戒処分をする場合にあたっては原告への非難の程度をさほど大きいものであると評価することはできない。〔中略〕
〔懲戒・懲戒解雇-懲戒権の濫用〕
 三 本件処分の相当性について
 1 公務員につき懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきであるが、懲戒権者は、懲戒事由に該当すると認められる行為の原因、動機、性質、態様、結果、影響等のほか、当該公務員の右行為の前後における態度、懲戒処分等の処分歴、選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等、諸般の事情を考慮して、懲戒処分をすべきかどうか、また、懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定すべきものである。したがって、懲戒権者が裁量権の行使としてした懲戒処分が違法となるのはそれが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合に限られる(最高裁判所昭和五二年一二月二〇日判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。
 そこで、本件処分が社会観念上著しく妥当を欠き裁量権を濫用したかどうかについて判断することになるが、本件においては、被告の認定した被処分事実には前記認定のとおり事実誤認があり、証拠により認められる事実の限度で原告に懲戒事由が存するというべきであるから、右事実を前提に処分の可否、種類等を決する必要がある。〔中略〕
 結局、本件処分は被告主張の懲戒事由に基づきなされたものであるが、前記認定のとおり被告には懲戒事由に関する事実誤認があり、証拠により明確に認められる事実を前提にすれば、原告の過去の懲戒処分歴その他一切の事情を考慮しても、原告に対して六か月間停職を命ずるのは社会観念上著しく妥当を欠き、被告の裁量権を濫用したものであり、違法であって、本件処分は取り消されるべきものである。