ID番号 | : | 07279 |
事件名 | : | 地位保全金員支払仮処分命令申立事件 |
いわゆる事件名 | : | 新光美術事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 三か月の試用期間をおいて採用された社員に対する試用期間満了日をもってなされた解雇につき、本件試用契約は解約権留保付労働契約というべきであり、その留保解約権の行使は客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認される場合に許されるとし、本件については、自己の労働契約の権利を主張し、また労働組合に加入するのではないかとの疑念を抱いたことから解雇したものと認められるとして、右解雇が無効とされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 試用期間 / 法的性質 労働契約(民事) / 試用期間 / 本採用拒否・解雇 |
裁判年月日 | : | 1999年2月5日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 平成10年 (ヨ) 3252 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部却下 |
出典 | : | 労経速報1708号9頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働契約-試用期間-法的性質〕 本件試用契約は、解約権留保付き労働契約というべきであり、その留保解約権の行使は、解約権留保の趣旨・目的(採用決定の当初には把握できなかった労働者の資質、性格や能力等を試用期間中の観察等により把握する趣旨・目的)に照らして、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認される場合のみ許されるというべきであるところ、債務者は、債権者に留保解約権を行使した理由として、債権者が営業員としての資質・能力面で必要な適性を欠いていること、債務者に差し入れるべき誓約保証書も提出せず、入社から一〇日後に給与額変更の上申書を提出し、債務者の規則に反して大型のRV車を無断で債務者の構内に乗り入れて工事作業に支障となるようなことをしたことを指摘する。そして、債権者が営業員としての資質・能力面で必要な適性を欠いている点については、具体的にはA事業部に対する営業活動における債権者の勤務態度及び勤務成績が不良であること、特に、債権者がA事業部から、同事業部に対する提案に必要な得意先情報を入手し、これをB部長等に連絡し、自らも右提案についての企画書の骨子案をまとめてこれをB部長等に提出するという役割を果たさなかったこと、見積価格の積算についての基礎知識が欠如していること、株式会社C通販事業部宛の提案趣旨及び企画書の作成を指示されながらこれに関する作業を放棄したことを主張する。〔中略〕 〔労働契約-試用期間-本採用拒否・解雇〕 債務者は、経験者に限った従業員の応募をしていないのであって、債権者が見積価格の積算についての基礎知識が欠如しているために営業員としての適性、能力を欠いていると認めるに足りる疎明はないし、債権者が株式会社C通販事業部宛の提案趣旨及び企画書の作成を指示されたことについては、この主張に沿うB部長の陳述書(書証略)は、債権者の陳述書(書証略)に照らして直ちに採用することができず、他に右事実を認めるに足りる疎明はない。債権者が債務者に差し入れるべき誓約保証書を提出しなかったのは、給料についての合意がなかったからに過ぎないし(書証略)、入社から一〇日後に給与額変更の上申書(書証略)を提出していることも債権者の資質、性格に疑問をさしはさませるものではないし、債務者の規則に反して大型のRV車を無断で債務者の構内に乗り入れさせたことも、それが債務者の留保解約権の行使を正当化させるものと認めるに足りる疎明はない。他に、債権者の資質、性格や能力等において従業員としての適格性に問題があると認めるに足りる疎明はない。 以上によれば、債務者の債権者に対する留保解約権の行使につき、客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認される場合に当たると認めるに足りる疎明はないというべきである。むしろ、前記一で認定した本件解雇に至る経緯によれば、債権者は、B部長によって行われた指示についてはこれを誠実に履行しており、債務者は、債権者が自己の労働契約上の権利を主張することを嫌い、かつ、債権者が前記労働組合に加入するのではないかとの疑念を抱いたことから、本件解雇に至ったのではないかと推認するのが相当である。 したがって、本件解雇は無効であるというべきである。 |