ID番号 | : | 07281 |
事件名 | : | 損害賠償請求事件、慰謝料等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 千代田生命事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 社長の失脚を意図して、週刊誌等に社外秘に当たる情報を漏洩したことを理由とする元常務取締役本部長に対する損害賠償請求が認容された事例。 |
参照法条 | : | 民法709条 民法710条 労働基準法2章 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 企業秘密保持 |
裁判年月日 | : | 1999年2月15日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成6年 (ワ) 24346 平成9年 (ワ) 27431 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(控訴) |
出典 | : | 時報1675号107頁/タイムズ1023号220頁/金融法務1548号32頁/労働判例755号15頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 久保宏之・私法判例リマークス〔20〕<2000〔上〕>58~61頁2000年2月/高岡信男・旬刊金融法務事情1548号6~11頁1999年6月5日/田中亘・ジュリスト1201号143~147頁2001年6月1日/野口恵三・NBL689号68~71頁2000年5月15日 |
判決理由 | : | 〔労働契約-労働契約上の権利義務-企業秘密保持〕 Yが記者に提供した情報は、生命保険会社として守秘義務のある特定の融資先との融資取引の内容やX会社内の人事問題、経営問題に係る社内の稟議の内容であり、これらのいわゆる会社の内部情報が公表されれば、会社の業務執行に支障を来すことは明らかであり、これらの情報は、会社の機密に属する事項として法的保護の対象となると言うべきである。 Yは、もとX会社の常務取締役であり、在任中であれば、職務上知り得た会社の内部情報について、取締役の忠実義務の一内容として守秘義務を負うことは当然である。そうだとすれば、Yは、役員退任後も、信義則上、在任中に知り得た会社の内部情報について守秘義務を負うと言うべきであり、このように解さなければ、当事者の信頼関係を基調とする委任契約の趣旨は全うされないことになろう。 4 Yは、表現の自由及びX会社の公共性を理由に、本件情報漏洩には違法性がないと主張するが、本件は、退任した取締役が在任中に職務上知り得た会社の内部情報について守秘義務を負うかどうかの問題であるから、守秘義務違反と認められる以上、本件情報漏洩は違法と言わざるを得ない。 5 本件各記事がX会社の醜聞を取り挙げたものであり、その内容がX会社の名誉信用を毀損することは明らかである。そして、本件情報漏洩が本件各記事の執筆につながり、これがX会社の名誉信用の毀損という結果を招来したことは否定すべくもないから、本件情報漏洩と本件各記事によるX会社の名誉信用の毀損との間に因果の連鎖があることは疑いがない。問題は、両者間にメディアの独自の判断(編集権)が介在することにより因果関係が否定されるかであるが、情報提供者が提供した情報内容に従った記事が掲載される蓋然性が高く、かつ、情報提供者自身がこのことを予測し容認していた場合には、情報提供行為と記事による名誉毀損との間の相当因果関係は存在すると言うべきである。 本件についてこれを見れば、Yは、本件各記事が問題とするバヴル期の乱脈融資について、これに参与する地位にあった者であり、Yから提供された情報及び資料は、記者から見れば、X会社の中枢にいてその内実を明らかにすることができる者ないしは有力な内部告発者のそれとして喉から手が出るほど欲しいそれであったことは推測に難くない。 そうであれば、Yがかかる情報を提供すれば、当該情報がそのような情報としてほぼ原形のまま記事として掲載公表される蓋然性は相当高い(そうでなければ、スクープ記事としての意味はない)はずであり、かつ、Y自身も記者が自分に対して取材を申し込んできたことから、当然このことを予測容認していたはずである。現に、(証拠略)の各記事は、Yの提供した情報を元役員、関係者又は内部告発者のコメントとして、かっこ書きで、発言をそのままの形で引用する形式で掲載し、かつ、資料も原文のまま引用しているのであり、これがこれらの記事に迫真性を与え、スクープとしての価値を付与していることは、記事を一読すれば、自ら明らかであろう。 よって、本件情報漏洩と本件各記事による名誉毀損との間には、相当因果関係があると言うべきである。 |