全 情 報

ID番号 07283
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 植樹園事件
争点
事案概要  在留資格喪失後就労していた韓国人労働者の労災民事損害賠償請求につき、元請会社の代表者が下請会社の従業員の作業を指示している場合には、下請会社、元請会社及びその代表者にも安全配慮義務を負うとし、損害賠償額について工夫がされた事例。
参照法条 民法416条
体系項目 労働契約(民事) / 労働契約上の権利義務 / 安全配慮(保護)義務・使用者の責任
裁判年月日 1999年2月16日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 平成9年 (ワ) 22334 
裁判結果 一部認容、一部棄却(確定)
出典 労働判例761号101頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働契約-労働契約上の権利義務-安全配慮(保護)義務・使用者の責任〕
 本件作業現場のように作業内容、作業規模が小さい現場(被告会社が被告Y1に請負代金として支払ったのは、工賃金一八万円、材料費五万二〇〇〇円である。〈証拠略〉)で、作業現場において元請の代表者である被告Y2自身が作業についての指示を与えているような場合には、現実に作業していた原告に対しても被告Y2、すなわち被告会社の現場支配が及んでおり、作業員が安全に作業できるように配慮する義務があるものと解される。
 したがって、本件において、作業現場に足場等もなく、雨中、滑りやすいビニール製の屋根材の上で、ボルト締めの作業をすることを結果的に黙認していた被告Y2、及び被告Y2が代表者であり、被告Y1に本件作業を下請に出した被告会社にも、本件事故によって生じた損害を賠償する責任がある。〔中略〕
 原告は、日本国内での原告の収入について具体的な事実を摘示してこれを主張しているわけではなく、また、この点についての客観的な証拠が提出されているわけでもないが、原告の陳述書によれば、平均月額約三〇万円の収入があったとされており(〈証拠略〉)、この金額自体が不合理とは言えないから、月額三〇万円の収入があったものと認定するのが相当である。〔中略〕
 (二) 原告の後遺障害逸失利益算定の基礎となる収入は、日本国内においては前記のとおり月三〇万円(年三六〇万円)と考えるべきであるが、原告は、本件事故当時既に適法に日本国内に在留する資格を喪失していた(〈証拠略〉及び弁論の全趣旨によれば在留期限は平成八年一月一日である。)のであり、本件事故に遭わなくともいずれ母国に帰国しなければならない状態であったから、日本国内での就労可能期間は、原告の右のような法律上の状態、原告自身の意思(原告本人)、事故から症状固定までの期間、日本での滞在を合法化する特段の事情がないことなどを総合考慮し、症状固定日の翌日である平成九年七月一日から三年間と解するのが相当である。
 そして、その後は母国である韓国での収入を基準にするべきであるが、原告は、韓国では軍隊生活を送ったことはあるものの他のこれといった職業に就いたことはなく(〈証拠略〉)、母国での就労実績から母国での収入を認定することはできないので、原告が事故当時行っていた建設業の母国内での平均賃金である月二〇万二九六九円(年二四三万五六二八円)を基準に算定すべきである(〈証拠略〉、原告本人)。
 (三) 原告は、一九六六年(昭和四一年)七月二日生まれで、症状固定日の一九九七年(平成九年)六月三〇日現在三〇歳であり、症状固定時において、日本国内及び母国内で六七歳まで就労可能であると考えられる。
 原告の労働能力喪失率は一四パーセントと認めるのが相当であるから、年五パーセントのライプニッツ係数を用いて中間利息を控除すると、原告の逸失利益は、次の計算式により六一四万二二三一円となる。
 三六〇万円×〇・一四×二・七二三二(三年のライプニッツ係数)+二四三万五六二八円×〇・一四×(一六・七一一二-二・七二三二)=一三七万二四九二円+四七六万九七三九円=六一四万二二三一円