ID番号 | : | 07284 |
事件名 | : | 一時金支払請求 |
いわゆる事件名 | : | 藤沢医科工業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 訴外医療法人は四つの関連会社を経営しており、四つの関連会社の従業員が加入する労働組合と一括交渉をし、その一時金協定が四つの関連会社の従業員にも適用されるが、人事考課査定がなされていないので一時金請求権は発生しないとし、正当な理由なく一時金査定を使用者がしなかったとして、一時金相当額の損害賠償の支払が命ぜられた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条2号 労働組合法16条 民法709条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賞与・ボーナス・一時金 / 賞与請求権 |
裁判年月日 | : | 1999年2月16日 |
裁判所名 | : | 横浜地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成8年 (ワ) 203 |
裁判結果 | : | 一部認容、一部棄却(控訴) |
出典 | : | 労働判例759号21頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 岩村正彦・ジュリスト1175号94~96頁2000年4月1日 |
判決理由 | : | 〔賃金-賞与・ボーナス・一時金-賞与請求権〕 (一) 組合は、平成六年九月二四日に結成され、A会、被告、株式会社B、有限会社Cの従業員を組合員としている。 右四法人は、いずれもA会の関連会社であり、一種の企業グループを形成している。Dは、これらの法人の実質的な経営権を掌握している。被告の社員募集はA会E病院の警備員としてされ、原告についても、Dが実質的に採用決定を行った。(〈証拠略〉) (二) 組合と右四法人との交渉はすべてE病院の労務担当者が行い、組合側も、交渉は右四法人に対して一本化して行ってきた。原告も、交渉に立ち会っていたが、右労務担当者が異議をいうこともなかった。(〈証拠略〉) (三) 本件訴訟において、被告は、当初本件協定が原告と被告との間に適用されることを争っていなかった。(顕著な事実) 2 右事実によれば、組合に加入し、E病院関係の業務に従事する者の労働条件については、組合とA会が一括して交渉して定め、右当事者間の協定は組合員と被告らA会以外の法人との間でも適用があるというのが両当事者の意思であったと認められる。よって、本件協定は原告と被告の間においても効力を有する。〔中略〕 2 ところで、賞与には、賃金の後払い的性質を有する場合、労働者の功労に対する使用者の報奨的性質を有する場合、さらにはこれらの性質を併せ持つ場合がある。ある賞与がこれらのどれに当たるかは、支給の根拠、支給額決定の方法、支給実績等にかんがみ判断されるが、本件においては、一時金の支給は、全額査定によるというものであり、使用者の査定により支給額が大きく変動することが予定されているといえる。この点につき、原告は、減額する場合には、一割を限度とする旨の口頭の合意が平成七年一月二七日になされ、それが協定締結時まで維持されたと主張し、(証拠略)には、それに沿う部分があるが、右合意は、協定の文言上現われておらず、その口頭合意から半年以上経った冬季一時金の協定成立時や、冬季一時金とは別の協定である夏季一時金の協定においてそのような内容が含まれていたと認めることはできない。さらに、原告は、冬季二か月、夏季一か月の一時金の支給が慣行となっていたと主張し、(証拠略)及び右1(八)の事実によればA会からA会の従業員に対し、平成三年から平成六年の時期におおむねこれらの金額以上の一時金が支払われていたことは窺われるが、なお、冬季又は夏季に一定の割合による一時金の支払がなされることが慣行となっていたことを認めるに足りる証拠はない。 以上、特に本件一時金はいずれも、全額人事考課査定とするものとされていたことから、本件一時金は、賃金の後払い的性質を有しているとしても能力給的な色彩が強いし、使用者による功労報奨的性質も有するものであると考えられ、使用者による人事考課がなされない限り、労働者は使用者に対する請求権を当然には有しないと解するのが相当である。〔中略〕 結局、原告に本件一時金協定の適用があるか否かは本件一時金協定の「賞与支給日在籍者」及び「平成六年一二月一〇日現在の在籍者」の解釈が問題となるが、これは特段の事情がない以上法律上雇用契約関係にあったか否かを基準として判断すべきである。原告について平成七年七月一〇日当時及び平成六年一二月一〇日当時被告との間で雇用契約関係があったと認められる(〈証拠略〉)から、原告は、本件在籍要件をみたすと考えるべきである。 しかしながら、本件一時金の請求権は、右に説示したように使用者による査定という意思表示がなされなければ具体的に発生しないというべきであり、被告が原告に対し、本件一時金に関し査定をしたことを認めるに足りる証拠はないから、原告は、本件一時金の請求権を有しない。 三 争点3について 1 右に説示したように本件一時金協定が締結され、さらに、その効力は原告に及ぶと解すべきであるから、被告は、原告に対し、本件一時金協定に基づき、原告に対する具体的な一時金の支給額を決定し、本件一時金協定に定められた支給日までに一時金を支給する義務を負うものと解すべきである。 ところが、被告は、正当な理由なく、原告に対し冬季一時金及び夏季一時金の支給の前提となる人事考課査定をせず、本件一時金協定に定められた支給日までに一時金の支給額を決定して、これを支給することをしなかったから、原告は、被告により、本件一時金協定に基づき一時金の支給を受けるべき期待権を侵害されたというべきである。 |