ID番号 | : | 07286 |
事件名 | : | 賃金等請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 新協運送事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | トラック運転手による月額賃金保障分(月四〇万円)の支払請求につき、一か月当たりの売上げ達成(一〇〇万円)の条件が付いており、本件ではこの条件が充たされていないとして、右請求が棄却された事例。 従業員の親睦のための会費(月一〇〇〇円)は、労働基準法二三条一項の積立金には該当しないとされた事例。 業務遂行中の事故による第三者損害についての労働者の「本人債務負担額」を賃金から控除したことは、労働基準法一六条及び二四条に違反しないとされた事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法16条 労働基準法23条1項 労働基準法24条1項 労働基準法27条 |
体系項目 | : | 労働契約(民事) / 賠償予定 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺 賃金(民事) / 出来高払いの保障給・歩合給 退職 / 金品の返還 |
裁判年月日 | : | 1999年2月17日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 平成9年 (レ) 78 |
裁判結果 | : | 控訴棄却(上告) |
出典 | : | 労働判例754号17頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金-出来高払いの保障給・歩合給〕 1 請求原因1(一)(労働契約)のうち、賃金を月額四〇万円と定めたとの点以外の点は当事者間に争いがない。 2(一) (証拠略)及び原審における(人証略)の証言並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人と被控訴人は、本件労働契約の締結に当たり、賃金は固定部分と流動部分とに区分し、右流動部分は控訴人の売り上げランクに比例して額を決する旨の合意をしたこと、右固定部分と流動部分を併せて賃金月額が四〇万円になるには一か月当たり一〇〇万円の売り上げを達成することが必要であったことが認められ、右認定に反する原審における控訴人本人尋問の結果は、前掲各証拠に照らし、採用することができない。 (二) しかるに、控訴人が、平成五年三月二九日(本件労働契約締結の日)から同年五月二〇日(同年五月分の賃金締切日)まで一か月当たり一〇〇万円以上の売上げを達成したとの証拠はない。〔中略〕 〔退職-金品の返還〕 2(一) なお、控訴人は、請求原因3記載の新和会費名目の控除について、積立金(労働基準法二三条一項参照)として返還請求するかのようにも解されるので、以下、この点についても検討する。 (二) 労働基準法二三条一項には、使用者は、労働者の死亡又は退職の場合において、権利者の請求のあった場合には、七日以内に賃金を支払い、積立金その他名称のいかんを問わず、労働者の権利に属する金品を返還すべきことが規定されているが、その趣旨は、労働者が退職した場合において、賃金、積立金その他労働者の権利に属する金品を迅速に返還させないと、労働者の足止め策に利用されることもあり、また、退職労働者又は死亡退職者の遺族の生活を困窮させることとなり、更に時がたつに従って賃金の支払や金品の返還に不便と危険を伴うこととなるので、これらの関係を早く清算させるという点にあると解される。 右規定の趣旨からすれば、同条にいう積立金その他労働者の権利に属する金品とは、積立金、保証金、貯蓄金のほか、労働者の所有権に属する金銭及び物品であって、労働関係に関連して使用者に預入れ又は保管を依頼したものと解すべきである。 したがって、以下では、A会費が、労働関係に関連して使用者に預入れ又は保管を依頼したものであるか否かを検討する。 (三) (証拠略)(給与支給明細書)、(証拠略)(新和会会則)及び原審における(人証略)の証言並びに弁論の全趣旨を総合すると、A会とは、被控訴人寝屋川営業所第三課の従業員を会員とし(新和会会則三条)、会員相互の新睦を図ることを目的とし(同四条)、会員の会費、被控訴人の補助金、寄付金を原資として(同一一条)、その資産は会長が統括し、その運用方法を幹事会で決した上で(同一二条一項)、新睦会及び傷病見舞金等の贈与金の贈与を行う(同五条、九条)団体であることが認められる。 (四) 右認定の事実によれば、A会は、従業員の新睦を図る目的で、被控訴人の従業員により設立された任意団体であって、A会費は、その維持のために徴収されていたものであるから、労働関係に関連して使用者に預入れ又は保管を依頼したものとはいえず、結局、A会費は、労働基準法二三条一項にいう積立金には該当しないというべきである。〔中略〕 〔労働契約-賠償予定〕 〔賃金-賃金の支払い原則-全額払〕 (一) (証拠略)、原審における(人証略)の証言及び原審における控訴人本人尋問の結果によれば、控訴人と被控訴人は、本件労働契約の締結に際し、控訴人が業務遂行中に第三者に損害を与え、被控訴人が使用者責任を追及されて右損害を賠償したときは、業務外、センターオーバー、飲酒運転を理由とする事故による損害ないしは積荷等の損害は賠償額全額、これ以外の損害は三万円を限度として、本人の負担とする旨の約定(本件債務負担の合意)を締結した(なお、本件債務負担の合意は、使用者が労働者に対してあらかじめ損害賠償を予定するものであって、労働基準法一六条所定の賠償予定の禁止に抵触すると解する余地がないではないが、右賠償予定の禁止は、現実の損害の発生いかんにかかわらず、一定金額の支払を損害発生前にあらかじめ定めることを禁止する趣旨にとどまり、使用者が労働者に対して現実に発生した損害の賠償を請求することを禁止するものではないところ、本件債務負担の合意は、現実の損害の発生を要件とし、しかも賠償額の上限を現実の損害額とし、事故態様によっては賠償額の上限を三万円に限定するものであるから、右規定に反するものではないというべきである。)〔中略〕 その一方、本件債務負担の合意は、飲酒運転等の重大な事由による事故の損害等こそ賠償額全額を本人負担とさせているものの、右の事由以外の事故による損害は、賠償額は三万円を限度とすることからすると、それ自体としては、必ずしも不合理なものとはいえず、右控除が本件債務負担の合意の範囲内である合計一万円にとどまったことからすると、控訴人は、本件事故により、その損害額のうち被控訴人の負担した九万九五八八円全額を求償されてもやむを得なかったところ、本件債務負担の合意により右損害額のうち三万円を超える部分を免責され、しかも現実にはそのうちの一万円しか控除されなかったというのであるから、右控除は本件事故の過失及び損害の重大さに比して、極めて低廉な金額に限定されたというべきである。 (三) 以上によれば、右控除には、控訴人の自由な意思に基づいてされたものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するというべきである。 |